プロバイダ任せでは「自由なインターネットは死ぬ」 ネット中傷への法規制めぐる識者の懸念と提案

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   フジテレビの人気番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラー・木村花さん(22)の死去を受け、ネットの誹謗(ひぼう)中傷をめぐる発信者情報開示制度の見直しを求める声が高まっている。木村さんは、番組内での言動に対するSNS上の批判に苦しんでいたとみられている。

   与野党は誹謗中傷を防ぐためにルール作りをする考えで一致し、総務省も制度改正を視野に検討を進めている。

   一方、表現の自由との兼ね合いから懸念も上がっており、識者は慎重な議論を求める。

  • 署名サイト「change.orgより」
    署名サイト「change.orgより」
  • 署名サイト「change.orgより」

開示請求が被害者の負担に

   高市早苗総務相は2020年5月26日の記者会見で、木村さんが23日に急逝したことに触れ、「どのような手段であれ、匿名で他人を誹謗中傷する行為は人として卑怯で許しがたい」と述べた。

   その上で、プロバイダ責任制限法で規定する匿名発信者の情報開示手続きについて「適切に運用されることが必要」とし、「発信者の特定を容易にするための方策などについて検討する予定です。この検討結果を踏まえて、制度改正も含めた対応をスピード感を持って行いたい」との見通しを示した。

   前日には与野党の国対委員長が、ネットの誹謗中傷への対応について協議することに合意していた。立憲民主党の安住淳氏は「心無い誹謗中傷で人を傷つけるようなやり方については何らかのルール化は必要」と訴える。

   総務省が先月設置した、情報開示に関する有識者会議は4月30日に初会合があった。配布資料によれば、一般的な開示請求は次の手続きを取る。

(1)SNS運営会社などコンテンツプロバイダに、IPアドレス、タイムスタンプを開示請求し、アクセスプロバイダ(携帯キャリアなど)を特定
(2)アクセスプロバイダに、氏名、住所を開示請求し、発信者を特定
(3)発信者に損害賠償請求など法的措置
開示プロセス(総務省有識者会議資料より)
開示プロセス(総務省有識者会議資料より)

   資料によれば、手続きのハードルの高さが課題になっている。権利侵害が明白でも発信者情報が開示されず、プロバイダを提訴するケースが少なくない。また、時間や費用がかかってしまい、被害者は重い負担を強いられているという。特に海外のプロバイダが相手だと、訴状の送達手続きで、より時間がかかる。

   有識者会議は、プロバイダの任意開示を促す方法や、手続きの短縮化などについて検討していき、今夏をめどに中間報告の取りまとめを予定する。

気を付けなければいけないのは...

   政府と呼応するように、民間レベルでも見直しを求める動きがでている。

   署名サイトでは23日、「SNSの匿名アカウントによる誹謗中傷を撲滅するために、プロバイダ責任制限法の改正と刑事罰化を求めます!」との活動が始まり、「発信者情報開示のための要件を下げる」「削除等の要請に応じず被害者の不利益を拡大するプロバイダには、刑事罰を下す」などを求めた。26日夜時点で約2万5000筆集まっている。

   一方で、憲法が保障する「表現の自由」への十分な配慮を求める声も少なくない。

   自民党の山田太郎参院議員は26日にツイッターに投稿した動画で、党の知的財産戦略調査会の小委員会で発信者情報開示制度について議論を進めているとし、「言ったもの勝ちにならないように、被害にあった人たちも対等に裁判を受けられるようにすることを目指していきたい」としつつ、

「気を付けなければいけないのは、表現の自由との関係」「何でも、匿名のものを開示してしまえば、通信の秘密も表現の自由も守られません」

と留意点を挙げた。

「枠組み自体を作り替える必要がある」

   IT法務に詳しい山口貴士弁護士はJ-CASTニュースの取材に、発信者情報開示請求の見直しには、「現行法は開示するかどうかの判断権を法律専門家集団ではないプロバイダやSNSに委ねているが、この枠組み自体を作り替える必要がある」と指摘する。

   その理由を「プロバイダには開示拒否に対するペナルティーはないが、不当開示に対する制裁は損害賠償だけではなく、刑事罰まである。これでは、プロバイダは自分の責任を免れるために少しでも迷えば開示しないという判断になるのは当然ではないか」と説明する。

「具体的には、プロバイダを当事者にするのではなく、当該表現が発信者情報開示請求の要件を満たすことを裁判官または独立行政委員会の前で疎明すれば、プロバイダ相手に発信者を特定するに資する情報を開示するよう命じる決定を得られるようにすればいい。刑事事件の令状に近い発想だ」

   開示のハードルを下げることで濫用の懸念もある。山口氏は「どのような表現について開示を認めたのか、一定の回数以上、発信者情報開示請求をした請求数が多い法人や個人を公開する制度を作れば、濫用対策になると思う」と話した。

   署名サイトでは、「削除等の要請に応じず被害者の不利益を拡大するプロバイダには、刑事罰を下す』との動きがある。この点を問うと「プロバイダに判断を任せると、疑わしいものは消せとなってしまい、プロバイダによる検閲が横行し、自由なインターネットは死ぬと思う」との見解だ。

   5月27日追記:コメント部分を一部変更しました

(J-CASTニュース編集部 谷本陵)

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