女子プロレスラーの木村花さんが、22歳で亡くなった。木村さんは、動画配信大手ネットフリックスやフジテレビの人気番組『テラスハウス』に出演し、死去当日には自身のSNSで誹謗(ひぼう)中傷に苦しんでいたことを示唆していた。
テラスハウスは「恋愛リアリティー番組」ブームの火付け役として知られ、以降、同様の番組が相次いで制作されている。
テレビ事情に詳しい専門家は、恋愛リアリティー番組の出演者が非難を浴びるのは制作側にも責任の一端があるとし、早急の対応を訴える。
アマゾン、Abemaも参入
木村さんは、若年層を中心に人気を集める恋愛リアリティー番組『テラスハウス』に出演し、番組内での言動に対するSNS上の批判に悩んでいたとみられている。与野党の国対委員長は2020年5月25日、こうしたネット上での誹謗中傷について、匿名発信者の情報開示などの対応について協議することに合意した。
テラスハウスは「台本のない男女6人の新たな青春の日々」をコンセプトに2012年から放送開始。シェアハウスで暮らす男女の生活を映した「リアリティー番組」をうたい、木村さんは19年から出演していた。
元テレビ朝日プロデューサーで、インターネットテレビ局「AbemaTV」の立ち上げにも参画した鎮目博道(しずめ・ひろみち)氏は25日、J-CASTニュースの取材に、「恋愛リアリティー番組のブームに火をつけたのは、日本ではテラスハウスなのは間違いない。その成功例がテレビ業界内で話題になり、他社が一斉に真似をした」「お年寄りしかテレビ番組を見なくて苦しんでいる中、恋愛リアリティー番組はテレビには珍しく、若い人が見るコンテンツだ」と話す。
インターネット通販のアマゾンジャパンは、17年からオリジナル番組「バチェラー・ジャパン」を配信した。一人の男性をめぐって多くの女性が奪い合う恋愛リアリティー番組で、現在、シーズン3まで作られるヒット作となった。
「AbemaTV」も、高校生の恋愛模様を描いた『オオカミくんには騙されない♡』『今日、好きになりました。』『恋する♥週末ホームステイ』など数多く制作し、サイト上ではアニメや映画とともに「恋リア」のカテゴリーを用意する。
出演者の忖度で「どんどんエスカレート」
恋愛リアリティー番組はヒットの裏で、出演者の言動をめぐって「炎上」がたびたび起きている。
ある恋愛リアリティー番組の出演者は20年5月、番組で誕生したカップルが別れた原因は自分のせいだとの憶測がネットで広まり、誹謗中傷を受けているとして、「事実無根」と否定する騒動があった。
前述の鎮目氏は、出演者が誹謗中傷を受けやすい背景の一つに、制作側の過剰な演出があるとみる。
「恋愛リアリティー番組がどんどん増えてきていて、どうやって面白く見せていくかという時に、出演する人物のキャラクター頼りになってきている。つまり、できるだけ意外なキャラクター、インパクトのあるキャラクターの子が出ているほうが視聴者は驚いてくれる。恋愛自体を見せるというより、変わった子を求めている感じなってきている。もちろん、台本を作っているわけではないので撮影を続けていくうちに『この子はこういう感じ』というのがわかってきて、その子のキャラを制作側で決めていくところがある。この子はわがままキャラ、すぐ泣いてしまうという風に。当てはめていったキャラを増幅させるように撮影や編集がされていると思う」
「ドラマだったらこの人は良い人、悪い人と台本に書かれている。その代わり、演じているだけだから視聴者は本当だとは思わない。恋愛リアリティー番組は撮影していく中で、ある意味リアルだけど大げさになって嘘が混じり、現実と虚構の微妙な線をいっている。それは見ている側が勝手に勘違いするというより、見ている人に『なにこの子』と思わせたいからやっていて、危険な演出といえる」
作り手の思惑や期待は、出演者にも伝わるという。
「ディレクターも『こういう画が欲しい』とにおわせ、出演する子たちも素人ではないので『私はこういうのが求められている』と察する部分がある。『私は嫌な子を求められているので嫌な感じにしないといけないんだ』というのを忖度していくのではないか。それは『番組の中で目立ちたい』というのが出演者の心理として働く。そうしないと埋もれてしまったり、途中で切られてしまったりするので。制作側が求める役割をできるだけ演じていこう、とキャラクターがどんどんエスカレートしていくところがある」
炎上マーケティング的な側面
鎮目氏は、ネットで議論が起こるように仕向ける演出もあるのではと指摘する。
「恋愛リアリティー番組はやればヒットするというので、いろいろなところで立ち上がってしまい、現在では番組の数が異常に多い。テラスハウスのような老舗でも今回(TOKYO 2019-2020シーズン)は不調だといわれてしまっていた。恋愛リアリティー番組同士で視聴者の奪い合いになっている。その中でほかより目立とうと思えば、プラスの反応だけでなくマイナスの反応も含めて話題性があったほうが埋没しない。炎上マーケティング的な側面が少しあったのかもしれない」
今後、制作側にはどのような対応が求められるか。鎮目氏は「前提として恋愛リアリティー番組は、出演者の人格自体を面白がるというか、コンテンツにしてしまっているので、防ぎにくい側面があるのは事実。その人への評価が番組自体の面白い・面白くないに直結している」と番組の特性に触れたうえで、(1)個人SNSアカウントでの番組宣伝の禁止(2)過剰な演出の自粛(3)宣伝動画の見直し――の3点を挙げた。
「恋愛リアリティー番組は若い人をターゲットにしているので、実はどの番組も出演者を選ぶ段階でウェブ上での発信力が高い子を選んでいる。数字をとるために出演者のパワーを借りようとしているので、出演者に個人アカウントを使って宣伝させている。なので、いざ炎上したときに番組側が矢面に立ってあげられず、その子に非難が直撃してしまう」
「また、その子の性格を増幅させて煽ったり、悪者にする演出はやめたほうが良い。本来であればもっと普通の子たちがでてきて、ナチュラルな恋愛を見せていく。人はいろいろな側面があり、嫌な面ともとれるのも個性でもあるし、良い面でもある。一人一人を救いがあるように描いてあげるのが良い。『嫌な子』だと描かれたら救いがない。今回のテラスハウスは放送期間が長すぎた。1年もやっていたらネタも切れますし、そうなると細かいエピソードを大げさに描かざるを得ない」
「恋愛リアリティー番組では、ウェブ上の拡散を狙うために、短いスピンオフ動画を流している。予告もかねてこれまでのあらすじを出しているが、これのまとめ方が煽っている。本編をちゃんと見れば、その子のさまざまな部分が理解できるが、短いパートだけを見ると、『なんだこの人は』と思ってしまいやすい。こうした宣伝の仕方は、誹謗中傷を生みやすい土壌になる」
AbemaTV、アマゾンの受け止めは
木村さんの急逝を、恋愛リアリティー番組の制作側はどう受け止めたのか。
テラスハウスの番組サイトには「突然の訃報に接し、言葉を失っております。ご親族の皆様へ謹んでお悔やみ申しあげるとともに、ご冥福を心よりお祈り申し上げます」と追悼コメントが掲載され、直近の放送休止が発表された。それ以降については明らかにしていない。
AbemaTVを運営するサイバーエージェントは取材に対し、「まず、『ABEMA』の恋愛リアリティーショーにはドラマのような台本はございません。ご出演いただく方には、番組ごとのコンセプトや、独自のルールをご理解いただいた上で、ご本人の意向を最重視して出演いただいております。ほかの番組に比べますと、年齢層の若い方のご出演も多いので、番組としてもSNSの誹謗中傷を含めた反響について相談しやすい環境を作るなど、できる限りのサポートを行わせていただきながら番組制作を行っていっております。木村花さんのご冥福をお祈り申し上げます」と回答した。
アマゾンジャパンにも取材を申し込んでおり、回答があり次第、追記する。
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)