22歳の若さで亡くなった女子プロレスラーの木村花さんにネット上で誹謗中傷が相次いでいたことについて、多くの芸能人らがツイッター上などで様々な発言をしている。
背景には、木村さんと同じような経験をしている人が多いことがあるようだ。芸能人の人権保護に取り組んでいる佐藤大和弁護士に、その実情や課題を聞いた。
法改正と刑事罰化を求めるネット署名も始まり、4000人超が賛同
亡くなった木村さんがネット上で執拗な攻撃を受けていたことは、メディアなどでも次々に取り上げられて、社会問題になっている。
芸能人らがツイッターを更新して、木村さんが置かれていた境遇に同情を示すとともに、誹謗中傷に対応できるような法制度の整備を訴える声も多い。
総務省では、2020年4月に設置した研究会でネット上の誹謗中傷を巡って、発信者情報の開示のあり方について議論を始めており、菅義偉官房長官は、5月25日の会見で、「その検討を踏まえて適切な対応を図っていく」と述べた。
ネット上の権利侵害情報の削除や匿名発信者の情報開示手続きなどは、「プロバイダ責任制限法」で規定されているが、クリアすべき課題も多いとされているからだ。
木村さんへの誹謗中傷問題は、国会でも取り上げられており、与野党の国対委員長は25日、今後の対応をめぐって協議していくことを決めたと報じられた。
ネット上では、大手署名サイト「change.org」で、「SNSの匿名アカウントによる誹謗中傷を撲滅するために、プロバイダ責任制限法の改正と刑事罰化を求めます!」とする活動も始まり、25日19時現在で4000人超が署名している。開示のための要件を下げることなどを求めており、スポーツコメンテーターの為末大さん(42)も、「こちら大事だと思います」とツイッターで紹介していた。
「ワイドショーや新型コロナの影響で、芸能人への攻撃増えた」
ネット上での誹謗中傷について、佐藤大和弁護士は、J-CASTニュースの取材にこう話した。
「コアのファンやアンチから少人数で攻撃を受ける個別のケースもありますが、不特定多数からコメントが押し寄せてくる集団による誹謗中傷が多くなっています。目の前に人がおらず、SNSというツールを挟んでいますので、心理的なハードルが下がっているように思います。批判と誹謗中傷の区別がつかず、イコールだと考えている人も多くいます。自分たちが正義だと思い込み、その人に落ち度があるとして攻撃したり、中には炎上を楽しむ人もいたりしますね」
さらに、佐藤弁護士は、メディアからの影響も指摘する。
「ワイドショーなどで誰かを一方的に叩くのを見て、自分もやっていいと思ってしまう方も多くいます。両論併記ではなく、対立当事者を作り一方に対して、厳しく言い、視聴者や読者を煽るテレビや週刊誌の責任も大きいと考えます」
ここ1か月で著名人から炎上などの相談が増えており、5月に入ってからは5件ぐらいもあったそうだ。
「背景には、新型コロナウイルスによる外出自粛の影響もあると思います。SNSの炎上が娯楽のように扱われ、ネット上の攻撃がストレス発散になっています。また、タレントもコロナの影響で仕事が少なくなり、SNSを見る時間も増えてしまい、精神的な疲労がたまっているのだと思います」
ネット上の誹謗中傷に対し、佐藤弁護士は、芸能人らの権利を守る制度の充実が不可欠だと説く。
「多数の発信者に対する迅速な情報開示や一度に大人数への損害賠償請求を可能にする法的な制度を作るべきです。名誉毀損への賠償額も上げる必要があります。SNS各社は、迅速に書き込み削除を行い、中学・高校などでは、SNS教育もするべきだと思います。プロバイダ責任制限法の改正も求められますが、大人数の集団による誹謗中傷対策を示すことも重要だと考えています」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)