外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(5)
3人の識者に聞く「民主主義の危機と地方分権の希望」

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注目すべき「和歌山方式」

   だが山口氏は、メディアで注目を集める大阪府や東京都よりも、むしろ目立たないが毅然とした態度をとって住民を守る首長に目を向けるべきだという。

   その代表として山口氏が挙げるのが和歌山県の仁坂吉伸知事だ。和歌山では2月13日に済生会有田病院で医師と患者の初感染が確認されたが、県は陽性患者を別の病院に移送して隔離し、医師や患者以外の出入り業者も含む関係者470人余全員にPCR検査を実施し、陰性を確認したうえで病院を再開させた。仁坂知事は「早期発見、早期隔離、徹底した行動履歴のトレース」という「和歌山方式」を打ち出し、「体温37.5度4日間」という国の方針に公然と反旗を翻し、かかりつけ医への受診やPCR検査を進めてきた。

   山口氏は、対策がうまくいっている自治体には、首長が先頭に立って発信し、積極的に情報を公開するという共通点がある、と指摘する。

「感染やクラスター発生は住民にとって『恐ろしい情報』だが、広げないためにどうするかという対策と共に公開すれば、無用な不安を生まず、行政への信頼を培う」

   危機はリーダーの資質を浮き彫りにする。その点では、日本の自治体の首長に限らず、世界の指導者にも共通する、と山口氏はいう。

「戦争を除けば、各国政府の対応が問われるこれほどの世界的危機は、近代民主主義の歴史でも初の出来事だろう」

   米国のトランプ政権は、科学的知見に基づく政策を打ち出せず、コロナ禍を政争の具にして混乱に拍車をかけた。英国のジョンソン首相も、当初は社会的免疫を広げるという緩やかな制限で臨み、感染の広がりを許した。それに対しドイツのメルケル首相は、「民主主義のもとで行動を制約するが、ここは耐え、いずれ自由を取り戻す」という明確なメッセージを送り、沈着に沈静化を図った。韓国の文在寅大統領も、2014年のセウォル号沈没事件の教訓を生かし、迅速に対応した。

「民主的に生まれたリーダーに共通するのは、情報を積極的に公開し、市民と共有し、責任の所在を明らかにすること。それは、日本の自治体の首長に限らず、危機における世界のリーダーにも共通する」

   そのうえで山口氏は、今後は社会のインフラを支える公共サービスをどう再構築するかが大きな課題になる、という。政府与党は補正予算に景気刺激策を盛り込んでいるが、今回の問題で浮き彫りになったのは、医療、物流、運送といったインフラを担う人々や、教育、学童保育、介護といった現場で働く人々の大切さだ。

   こうした分野は、これまでの成長戦略のもとでは「安あがりに済ませる」方針で非正規化や労働環境の劣化が進められてきた。

「小泉進次郎環境相が、ごみ収集に感謝して、袋にメッセージを書くよう提案した。いいことには違いないが、政治がすべきなのは、最低賃金を引き上げ、劣悪な労働環境を改善し、尊厳をもって働けるようにすることだろう」。

   マスコミの脚光を浴びる大阪府にしても、このコロナ禍の前まで、大阪維新の会が、公共セクターのリストラを進め、医療の対応能力を弱めてきたことも含め、総合的に判断する必要がある、と山口氏は指摘する。

「この危機を通して有権者は、政治家が問題をすり替えたり、やったふりをしたりすることを、冷静に見透かしている」
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