国はデータが不十分
西村経済再生相が「国の権限」を前面に押し出せなかったのは、大阪府が主張するように、解除には具体的なデータや指標をもとにした基準が必要なのに、国のデータは不十分だったからだろう。
厚労省は当初から、医療現場を守るため、PCR検査の件数を絞ってきた。国の専門家会議は2月17日に、PCR検査の必要性を相談する際には「37.5度以上の発熱が4日以上続く」などの目安を示した。だが厳しい目安のため、実際に検査を受けられる人は外国と比べても少なく、感染拡大の実態をつかめていないのでは、という疑問や批判が出ていた。
吉村知事が問題にしたのもこの点だ。「大阪モデル」を発表した日にテレビに出演した知事は「府が毎日公表している『陽性率』は、検査件数のうち、実際に陽性になった人の数を示すだけでなく、『検査数が適正かどうか』の目安にもなる」ことを力説した。陽性率が高いのは、感染が拡大している場合だけとは限らない。症状のある人に検査を絞った結果、高止まりしたままという可能性もある。
自粛要請解除に向けて厚労省は慌ただしく動き始める。5月8日には、PCR検査の相談目安から「37.5度以上の発熱が4日以上続く」などを削除し、息苦しさや強いだるさ、高熱などの強い症状のいずれかがある場合や、基礎疾患のある人で比較的軽い風邪症状のある人はすぐに相談する、と改めた。
厚労省はさらに、10日付で都道府県に、PCR検査を実施できる医療機関の対象拡大を通知し、13日にはPCR検査と併用する「抗原検査」を承認した。さらに15日には、過去の感染歴を調べるために、6月にも1万人規模の抗体検査を東京、大阪、宮城で実施すると発表した。遅ればせながら、ようやく客観的データをつかむ基礎作業が本格化したというところだろう。
政府の専門家会議は39県の宣言解除にあたって、14日の提言で、解除基準として(1)感染状況(2)医療提供体制(3)検査体制の構築を条件に挙げた。(1)は直近1週間の新規感染者数がその前の1週間を下回り、直近1週間に報告された10万人あたりの累計新規感染者数が0・5人未満程度になることを挙げた。感染が拡大する場合に再宣言する際の基準も、直近1週間の(1)10万人あたりの累計感染者数(2)感染者が2倍に増える日数(倍化時間)(3)感染経路が不明の割合を総合的に判断する、とした。
一方、東京都も15日に段階的な緩和の基準「ロードマップ」の骨格を発表した。こちらは(1)新たな感染者数が1日20人未満(2)感染経路が不明な人が50%未満(3)週単位の倍化比率が1未満という3つの条件をすべて2週間連続でクリアした場合、重症患者数、入院患者数、PCR検査の陽性率、受診窓口での相談件数も考慮して解除を判断する、としている。
こうした経過を振り返れば、「大阪モデル」が先例となって、具体的なデータ、具体的な指標による解除の基準を明確する動きが始まり、それが東京都や国の態勢づくりに大きな影響を与えたことがわかる。