外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(5)
3人の識者に聞く「民主主義の危機と地方分権の希望」

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   コロナ禍は各国に、迅速な危機管理と経済対策を取るよう迫ってきた。日本の場合、政府対応はうまくいっておらず、迷走が目立つ。後手に回る政府の対策の隙間を埋めるように、都道府県の各知事がリーダーシップを発揮し、独自の施策や基準を打ち出した。長らく掛け声倒れに終わった「地方分権」に向けて潮目が変わったのか。もし、そうだとすれば、新たな地方自治に必要なものは何か。山口二郎・法政大教授、上田文雄・前札幌市長、地方自治に詳しい森啓・元北海道大教授と共に考えたい。

  •                   (マンガ:山井教雄)
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自粛要請は自治体から広がった

   新型コロナウイルスの感染が拡大してから、この間、政治の構図が変わりつつあることを示す兆しがいくつかあった。

   第一は、これまで中央政府の号令一下、中央官庁の指示に従って全国一律に動いてきた地方自治体が、その本来の姿を取り戻し、感染状況や地方の実情を踏まえた独自の動きを見せ始めたことだ。

   早くは2020年2月28日、当時感染者が計66人と全国最多になった北海道の鈴木直道知事が、全国に先駆けて独自の緊急事態宣言を出し、道民に週末の外出自粛を呼びかけた例だ。

   これは安倍首相による同26日の「イベント2週間自粛」、同27日の週開けから春休みまでの全国の小中高校の休校」要請と同じく、法的な根拠はなかったが、国の特措法改正や緊急事態宣言の発出に先駆けて行った自治体の要請だったという点では突出していた(道の宣言は3月19日にいったん終了)。

   3月13日には国会で改正特措法が成立するが、同24日に安倍晋三首相がIOCのバッハ会長と電話で協議し、夏季五輪を1年延期すると決めるまで、政府の対応は鈍かった。

   むしろ先に動いたのは自治体だ。大阪府の吉村洋文知事は19日、20日からの3連休に兵庫県と大阪府の不要不急の往来を自粛するよう住民に対し、異例の要請をした。この要請は、改正特措法に基づくものではなかった。

   夏季五輪の延期が決まるのを待っていたかのように東京都の小池百合子知事も同25日、「感染爆発の重大局面」だとして平日の在宅勤務、夜間の外出自粛、週末の不要不急の外出自粛を都民に要請した。翌26日には東京、神奈川、千葉、埼玉、山梨の1都4県の知事がテレビ会議で共同メッセージをまとめ、住民に不要不急の外出自粛や時差出勤、在宅勤務を求めた。また、都は神奈川、千葉、埼玉の3県に対し、都内への不急不要の移動を控えるよう求める方針を決めた。

   首都圏の動きは27日には各地に広がり、大阪府と岐阜県は不要不急の外出自粛を求め、愛知、福島県は東京など首都圏への行き来を控えるよう呼びかけた。こうして外出自粛要請は、むしろ自治体から、個別に出されて全国に広がっていったといえる。

   その後、国は4月7日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象に1か月間の緊急事態宣言を出し、同16日に対象を全国に拡大した。その間、東京都や大阪府を中心に、国への緊急要請が相次いだ。

   8日にテレビ会議で開かれた全国知事会は、NHKで中継されたが、これも異例のことだ。全国知事会では、自粛で事業者が負った損失や軽症者・無症状患者のホテルの借り上げ費用などで国の支援を求める緊急メッセージをまとめ、国に要望した。

   東京都は同10日に休業要請する業種を明示して、2店舗以上を持つ事業者に100万円、1店舗の事業者には50万円の「協力金」を支払うことを決めた。都ほどの財源を持たない自治体の中には、「協力金は国からの臨時交付金の一部を充てる」(神奈川県・黒岩祐治知事)という案もあったが、新型コロナウイルスの対応にあたる西村康稔経済再生相は同13日の参院決算委員会で「国が自治体に配分する臨時交付金は休業補償には使えない」と、これに消極的だった。だが西村経済再生相は、緊急事態宣言が全国に拡大した後の同20日、地方自治体に配る1兆円の臨時交付金について、休業した事業者への「協力金」の体裁なら、事業者への休業支援に充てられる、と明言した。地方自治体からの切実な要求に対し、事実上、方針を転換したかたちだ。

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