新型コロナウイルス対策として1人あたり10万円を配る「特別定額給付金」の給付が始まったものの、各自治体で対応時期に差が出ている。
対応の遅さに批判も出ているが、大阪府四條畷市の東修平市長(31)はSNSで、自治体が直面する課題を8000字超におよび説明した。
自治体で異なる給付方針
東氏は5月17日、ブログサービス「note」で「なぜ10万円給付に時間がかかるのか」と題した記事を公開し、給付の"ボトルネック"を明かした。
まず、給付方針は自治体によって異なり、大きく(1)全体最適型(2)一部最速型(3)力技型の3つに分けられる。給付時期に差が出るのは方針が違うためだという。
(1)は、申請世帯全体への給付を「正確に」「早く」行うための方針だ。基本的には郵送とオンラインで申請を受け付け、システムや事業者の力も借りながら手続きを進めていく。
煩雑な手作業を減らすことでミスを防ぎ、職員の「密」も回避しやすい一方、「準備行為などの初動やシステム事業者との調整に時間がかかるため、申請書の郵送や給付の開始日が他の方針より遅くなります」という。
(2)は、臨時窓口の設置など、郵送・オンライン以外による申請も受け付ける。申請書の印刷や封入といった作業も職員が担当し、給付スピードを早められる利点がある。
一方、人海戦術をとらざるをえず、「申請世帯全体への給付に時間がかかる、作業ミスが起こりやすい、作業中に職員の『密』状態(※)が発生しやすい」との欠点もある。
※東氏によれば、「基礎自治体は、特別定額給付金への対応を含む業務の多くが住民の個人情報を扱うため在宅では行えません」「行政情報を扱うネットワークにはアクセスできますが、たとえいかなる方策を用いても、現在の技術では住民基本台帳を扱う基幹系システムには庁外からアクセスできない」
(3)は、職員による手渡しを指す。最短での給付が可能だが、「人口が極めて少ない自治体でしか採用できない」とする。
四條畷市では、(1)の全体最適型の対応を進めている。
郵送による申請手続きの流れ
四條畷市では、郵送と、マイナンバーカードを用いたオンラインでの申請を受け付ける。
郵送では、はじめに全世帯に送付する申請書のフォーマットを決める。「一部最速型」では、「総務省の雛形を用いて市町村独自に様式を定めることで、雛形の提示直後から次の手順へと進めます」
一方、全体最適型では、住民基本台帳システムを構築した事業者が「全国の自治体において適用できる統一様式を調整・作成」するため、自治体に申請書が届くのに時間がかかる。
次に、申請書への印字・封入作業に入る。全体最適型では、前述の事業者が「すでに全世帯分(配偶者からの暴力などを理由に特別な配慮が必要な人を除く)の必要情報を印字した申請書を、返信用封筒などもセットにした完成品の状態で納品してくれる」ため、作業は発生しない。一部最速型は自前で行う。
その後、郵便局に申請書の発送を依頼。返送があり次第、不備がないか確認する。
課題が多いオンライン申請
オンライン申請では、政府の専用サイト「マイナポータル」を活用する。四條畷市では5月15日時点で約700件の申請があり、東氏は「この手順に最大の課題があります」と指摘する。
申請情報を把握するには、マイナンバーカードの情報処理を行う「J-LIS(地方公共団体情報システム機構)」から申請データを自治体側の端末にダウンロード→zip(圧縮)ファイルを解凍→CSVデータを申請書の様式に変換→印刷...とステップを踏まなければならない。
オンライン申請では不備も目立つといい、東氏はその理由を次のように述べる。
「マイナポータルでは打ち間違いなどに対してエラーは出ず、何を書いても申請できる仕様となっています」
「口座情報などの添付書類についても、どんな画像データでもアップロード可能です」
「同じ人が何度でも申請可能な仕様になっており、もっと言えば、世帯人員に何人でも書くことができます」
そのため、対象者に電話や郵送で再申請をお願い(マイナポータル上では連絡不可)するケースもあり、給付は「郵送より遅くなる可能性があります」という。
実際、香川県高松市は19日、マイナポータルのシステム上の問題や誤入力などにより給付が遅れているとして、24日からオンライン申請を中止し、郵送に一本化すると発表した。
東氏は「何より、こうした仕様であることは自治体には事前にまったく知らされていないため、対応策等を練る時間もなく申請受付を開始した経緯があります」と不満を漏らし、「(マイナンバーカードの暗証番号の)再設定は役所まで来ていただかないとできない仕様になっています(中略)さらに、再設定の際には役所のシステムから国のシステムへとアクセスする必要があるのですが、国のシステムへのアクセスが殺到したことで数時間待ちになり、役所に行列ができる自治体が出てくる事態となっています」と制度設計の不備により実害も出ているとした。
振り込み作業でも一苦労
郵送とオンラインによる申請を紙媒体に一元化したら、ひたすら住民基本台帳と見比べて精査(全体最適型は短縮可)し、不備がなければシステム上で金融機関に振込を依頼する。紙に記載された口座情報などをシステムに「手入力」していく。
目視での照合作業は非効率的に思えるが、東氏は「マイナポータルのシステムと住民基本台帳システムがすぐには連動できないことに起因しています。なぜなら、マイナポータルは国主導のシステムである一方、住民基本台帳システムは各自治体ごとに異なる事業者に委託して構築されているからです」「加えて、住民基本台帳を扱う基幹系システムは通常の行政情報を扱うネットワークとは切り離されて構築されており、情報を容易に移動させることができません」と事情を明かす。
精査の段階でも、オンライン申請特有の問題が出てくる。
「郵送による申請では、住民基本台帳に記載された情報を申請書に印字している関係上、世帯構成の記載などに間違いが生じることはありません。一方で、マイナンバーカードはあくまで『個人』を対象とした制度であるため、世帯構成に関する情報はカード上に保有されておらず、ご自身で入力いただくことになります。そのため、オンライン申請では、申請情報と住民基本台帳に記載されている情報に齟齬が生じる可能性が出てきます」
国会議員の方々は精神論ではなく...
東氏は最後に、「全体への給付が1日でも早く実現できるように、職員一同、全力で対応にあたっていることは重ねてお伝えしたい」とした上で、「ここまで記事を読んでいただければ、いったいどこに不具合があるのかは明白かと思います」と投げかけ、
「国会議員の方々が、『なぜもっと急がないんだ』という精神論を唱えるのではなく、自治体から上がる無数の声に耳を傾け、それらを分析し、今後に向けた正しい判断をされるであろうと、私は信じています」
と国に要望した。
このnoteを執筆した東氏は1988年生まれ。京都大学大学院工学研究科出身で、外務省などを経て、2017年に四條畷市長に初当選したという経歴の持ち主だ。
noteは広く拡散し、「想像はしてたけど、やはり大変な作業量だよな...」「この仕事、絶対やりたくないわ......担当者様、本当にお疲れ様です」と職員への労いや、「ひどいわ。オンライン申請で、する方もされる方も省力化でハッピーと思っていたのに」「オンラインで申請しても印刷して郵送と同じ状態にしてるのか...」など驚きの声があがっている。
東氏のnote全文はhttps://note.com/politic/n/n445ebc670a87から閲覧できる。