「#検察庁法改正案に抗議します」というツイッターのハッシュタグとともに抗議の声が高まったことを受け、政府。与党は今国会での検察庁法改正案の成立を断念し、継続審議とすることを2020年5月18日に決めた。
問題となったのは、現在は60歳の国家公務員の定年を段階的に65歳にまで引き上げる法案のうち、政府の判断で検察幹部の定年を延長できる特例規定の部分だ。法案の採決阻止を訴えてきた野党側は、国家公務員の定年延長は必要で、法案から検察庁法の問題部分を削除して審議すべきと強調。野党議員からは「#検察庁法改正部分は切り離し」というツイートが増えている。
ひとつの法案で多くの法律を一気に改正する「束ね法案」
今国会での成立を断念することになった法案は、政府が3月13日に閣議決定し、「閣法第25号」として国会提出した「国家公務員法等の一部を改正する法律案」。国家公務員法や検察庁法など33の法律を改正する内容だ。ひとつの法案で多くの法律を一気に改正する、いわゆる「束ね法案」だ。
安倍氏は5月18日夕、
「この法案については、国民のみなさまから様々なご批判があった。そうしたご批判にしっかりと応えていくことが大切なのだろうと思う。この定年の延長、今回の公務員制度の改革についての趣旨、中身について丁寧に、しっかりと、もっとよく説明していくことが大切なのだろうということで、(自民党の二階俊博)幹事長と一致をしたところだ」
などと説明。検察幹部の問題だけではなく「公務員制度の改革」にも理解が得られていないとの立場だ。だが、立憲民主党の枝野幸男代表は、その数時間前のツイートで、定年引き上げは野党も賛成しており、この部分については審議を進めるべきだと主張した。
「私たちが異議を唱えていたのは、幹部検察官の恣意的な職務延長。一般の公務員などの、一律の定年年齢引き上げは与野党一致して賛成です。定年年齢一律引き上げの準備のため、法案審議を急ぐと与党は言っていました。問題部分を切り離して、一致している部分の審議は進めるべきです」
トレンド入り後に「切り離し」強調
この「問題部分を切り離す」論はいつから強調されるようになったのか。
立憲の福山哲郎幹事長の4月21日の記者会見では、緊急事態宣言の延長や補正予算への対応が主な話題で、検察庁法案は話題にのぼらなかった。国民民主党の玉木雄一郎代表の5月1日の会見では、
「今、年金のこととか検察官の定年延長の法案とか出ているが、そういうコロナ以外の不要不急の法案はもう取り下げて、まず、我々が提案しているような家賃の支払いを支援するような法案であるとか、これから出していく学生の学費を軽減するような法案とか、本当に急ぐものを先にやって、急がないものはそういったものが終わった後に(会期)延長してでもやればいい」
などと発言。国家公務員の定年延長の是非には言及しなかった。
衆院内閣委員会で法案が審議入りしたのは5月8日。野党は森雅子法相が出席した上での審議を求めていたが、与党は森氏を出席させずに審議を開始。多くの野党は反発して欠席した。この日の枝野氏の会見では、
「そもそも内閣委員会で束ね法案でやっていることがおかしい。一般の公務員と検察官と、そもそも人事法体系が違うのだから、検察庁法の改正で法務委員会でやるべきものを、束ね法案にしているという、むちゃくちゃなやり方で始まっていることなので、この状況で与野党の合意もできないことを強引に進めるということについては、やはり今の時点を軽く見ているんだなぁ、政府は、と思わざるを得ない」
などと発言。法案を「束ねる」ことの問題を指摘したものの、国家公務員の定年延長に賛成で、その部分の審議を進めるべきだという点には言及しなかった。
この間、8日から登場した「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグがじわじわと広がり、10日にトレンド入りして一躍注目を集めるように。
「切り離し論」の本格な展開が始まったのはその直後、11日だ。福山氏が参院予算委員会で
「総理、提案です。この国家公務員法から検察庁法だけ抜いて審議したらどうですか?」
「我々、ちゃんと提案してます。国家公務員法、全部を反対だと言っているわけではない。だから切り離せばいいじゃないですか」
と提案したのに続いて、この日の夜の動画番組で、枝野氏は
「(問題の法案の審議を)国家公務員法を所管する内閣委員会で、国家公務員法を担当している大臣が出てきてやっているが、国家公務員法本体で定年延長することは誰も異存ないんですよ。問題になっているのは検察官の部分で、恣意的な人事ができる中身になっているところだけが唯一といっていいぐらい問題なのに、その所管の法務委員会ではない」
などと述べた。
ハッシュタグは「抗議します→強行採決に反対します→改正部分は切り離し」
5月13日には、立憲、国民民主、共産、社民の4党の党首らが国会内で会談。各党は国家公務員の定年延長そのものには賛成の立場で、「切り離し」を求めていくことで足並みをそろえ、今に至っている。
枝野氏のツイートでは、5月11~13日にかけて「検察庁法改正に抗議します」「検察庁法改正案に抗議します」「検察庁法改正法案に抗議します」といったハッシュタグがついていたが、14~18日は法案の「強行採決に反対します」に変化。18日に「検察庁法改正部分は切り離し」が登場した。
なお、立憲は地方自治体職員でつくる自治労をはじめとする官公労系労組の支援を受けており、19年の参院選では、自治労の組織内候補として立憲から比例区で出馬した岸真紀子氏が当選している。自治労は20年1月末に開いた中央委員会で、「雇用と年金を確実に接続させるためには定年引き上げが必要」との立場を打ち出している。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)