安倍首相「法務省から人事案」 波紋発言の詳細と、繰り広げられる場外戦と

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   安倍晋三首相が東京高検の黒川弘務検事長の定年延長に関して行った発言に注目が集まっている。共同通信が「『法務省が提案』首相発言が物議(以下略)」の見出しで報じる一方、共同記事に対して産経新聞出版の一部ツイッターアカウントが違和感を示すなどしている。

   首相の言及は、ジャーナリストの櫻井よしこ氏のインターネット番組でのやりとりの中であった。記事配信の数日前に公開されたもので、安倍首相は、法務省が人事案を持ってきて、それを「我々が承認をする」と述べていた。

  • 安倍首相(5月14日撮影)
    安倍首相(5月14日撮影)
  • 安倍首相(5月14日撮影)

共同「無関係強調に疑問の声」

   共同通信(ウェブ版)は2020年5月19日、「『法務省が提案』首相発言が物議 定年延長、無関係強調に疑問の声」の記事を配信した。「検察庁法改正案に反対する前川喜平・元文部科学事務次官」と、国民民主党の小沢一郎衆院議員の2人のコメントが紹介され、前川氏は「(略)首相の言っていることは形式論」と、小沢氏は「総理は何事でも平気でうそをつく」と述べている。

   17日にも、櫻井氏のネット番組(15日)での安倍首相の言及内容に触れながら、「(黒川検事長の定年延長に関し、)安倍晋三首相は、法務省側が提案した話であって、官邸側はこれを了承したにすぎないとの説明に乗り出す構えだ」と指摘する別記事も流していた。

   今回の19日共同記事をツイッターで紹介しつつ、共産党の志位和夫委員長は同じ日、

「『黒川氏の定年延長は法務省の提案』なる首相の主張は、15日の桜井よし子氏(編注:原文ママ)とのネット番組で突然言い出したことだ。到底信じられない話だが、そういう『事実』があるというなら、国会で説明してもらわねばならない」

とツイートした。

   一方、同じ記事を批判的に取り上げたのは、産経新聞出版の書籍編集部アカウントである「産経新聞出版1」で、

「この記事がヤフーニュースのトップに置かれて『首相発言』がトレンドにもあがっていますが、本文に出てくるのは前川喜平元文科事務次官と小沢一郎氏だけ。『元官僚らからは疑問の声が上がる』って...」

と、19日共同記事の前文の一部を引用しながら違和感を表明していた。前川氏も小沢氏も、従来から安倍政権に批判的な発言を行っていることで知られている。

櫻井氏の指摘に「全くその通りですね」

   15日の櫻井氏のネット番組(言論テレビ)での安倍首相と櫻井氏とのやりとりは、19日夕現在、言論テレビ公式サイトの動画で確認できる。黒川検事長の定年延長に関する箇所は、以下のような流れだった。

櫻井氏「政府高官に取材をしました。黒川さんの定年延長の問題も、検察庁つまり法務省の側から持ってきたものを官邸が了承しただけだと聞いたんです。かなり詳しく。本当なんですか」
安倍首相「全くその通りですね。検察庁を含めて法務省が、こういう考えでいきたいという人事案を持ってこられて、それを我々が承認をする、と」
櫻井氏「(編注:法務省幹部の具体的役職名も挙げながら、その人物が人事案を)官邸に持ってきて頼んだことも本当ですか」
安倍首相「詳細は承知してないですが、基本的に検察庁の人事については、検察のトップも含めた総意で『こういう人事で行く』と持って来られ、それはそのままだいたい我々は承認している、ということなんですね」
櫻井氏「官邸が介入するとか、介入して変えるとかは?」
安倍首相「あり得ないですね」

といったやりとりがあった。

3月の国会説明では

   また、櫻井氏は17日放送の「日曜報道 THE PRIME」(フジテレビ系)にリモート出演し、黒川検事長の定年延長を「前代未聞の卑劣なこと」と批判した若狭勝弁護士(元東京地検特捜部副部長)に反論した。15日ネット番組での指摘のように、自身の取材の結果として、法務省内の意思決定の時系列も示しながら、「官邸は法務省および検察庁から上がっているものをそのまま受け入れているだけ、と言ってもいい」と強調した。

   一方の若狭氏は「まったくもって事実と反する。(略)実質的な発案者は官邸、内閣で間違いない。ただ、形式的な国の組織としては検察庁は法務省、法務大臣が管轄してますから形の上では法務大臣から上申した形は当たり前なんです」と、「法務省から提案」といった見方に対し、形式論に過ぎないと再反論を繰り広げた。

   安倍首相はこれまでに国会で、黒川検事長の定年延長について、どのような説明を行っていたのか。

   たとえば3月9日の参院予算委では、小西洋之議員(立憲民主党などの共同会派)の質問に対し、

「(定年延長が可能だとの)今回の解釈についての変更は、検察庁を所管する法務省において適切に行われたものと承知しています。その上で黒川検事長については、検察庁の業務遂行上の必要性に基付き、検察庁を所管する法務大臣からの閣議請議により、閣議決定され、引き続き勤務させることとしたものであり、何ら問題ないと認識しております」

と答弁した。

   黒川検事長の定年延長との関連の有無も含め与野党で議論が対立していた検察庁法の改正案は、今国会での成立が見送られた。菅義偉官房長官は19日の会見で、改正案の見送りは黒川氏の今後の人事には「全く影響はない」との考えを示した。

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