「続けてのけん制はないと...」
1点ビハインドの9回、1死から鳥谷が四球を選び1塁へ。次の打者・長野久義外野手(当時・巨人)の打球は浅いセンターフライ。2死1塁の場面で打席に井端が入る。台湾のマウンドは陳鴻文投手。アウトカウントひとつで日本の敗退が決まる絶体絶命のピンチで、井端の初球に鳥谷が2盗に成功した。そして井端は2ボール2ストライクからセンター前に運び、2塁走者の鳥谷が生還して3-3の同点とした。
刺されたら試合が終わる場面で、なぜ鳥谷は盗塁を成功させることができたのか。鳥谷は1塁に出塁した際、1塁ベースコーチャーの緒方耕一外野守備・走塁コーチに陳鴻文投手のクイックの遅さを確認したという。ただ、いくら陳鴻文投手のクイックが他の投手よりも遅いからといってあの緊迫した場面で盗塁するのは難しいだろう。戦略コーチの立場にあった橋上氏は、鳥谷の盗塁に関して次のように解説した。
「陳鴻文投手のクイックが遅いというデータはもちろんありました。これに加えてもうひとつ、陳鴻文投手はあまりけん制をしないというデータもありました。これは試合前のミーティングでも確認しましたし、選手も分かっていたと思います。9回のあの場面で鳥谷選手が盗塁する前に一度、陳鴻文投手がけん制を入れています。ただでさえけん制が少ない陳鴻文投手ですから続けてのけん制はないと考えたのでしょう。だからこそ鳥谷選手は思い切ってスタートを切れたと思います」(橋上氏)