新型コロナウイルスの感染が拡大し続ける中で、自国企業の外資による買収への警戒感が広がっている。ウイルスの感染拡大を抑え込んだとして、いち早く経済活動を再開した中国が、株価が下落して割安になった日米欧の企業を狙っているというのだ。
折から、日本では海外投資家が日本企業の株式取得を規制する改正外為法(外国為替及び外国貿易法)が2020年6月7日から全面適用されるし、欧州連合(EU)も規制対象の拡大に動き、豪州、インドでも同様の動きがある。ただ、行き過ぎた自国優先主義は経済の活力を阻害する懸念もあり、注意が必要だ。
「国内企業を守るため政府の権限を強化する」国も
欧州では、中国系の企業やファンドから国際的な欧州の金融機関に、M&A(企業の合併・買収)に関する照会や依頼が急増しているという。新型コロナ感染拡大でM&Aをめぐる欧米の企業の動きがパタリと止まる中、株価下落により割安になった企業が続出しており、好機とみて動いているようだ。欧州各国では株価が年初から軒並み2~3割下落。「新型コロナは、中国資本がM&A低迷から脱出を図るきっかけになる」(通商筋)とされる。
こうした動きを受け、欧州委員会のホーガン欧州委員(通商政策担当)が4月16日のEUの貿易商のテレビ会議で「EUは外国からの投資にオープンだが、今まで以上に適切な審査でバランスをとる必要がある」と発言。これより前、ベステアー欧州委員(競争政策担当)が英紙のインタビューで、中国勢による買収について「加盟国が必要ならば市場参加者として行動し、買収阻止のために企業の株式を取得しても、何の問題もない」と述べた。
米ブルームバーグ通信などの報道によると、各国は対応を始めている。新型コロナで大きな打撃を受けたイタリアが4月、外国企業の買収から国内企業を守るため政府の権限を強化する措置を発表。防衛産業などに限っていた規制対象を銀行、保険、エネルギー、ヘルスケアなど広範な業種に広げた。同様に被害が大きいスペインも、外国直接投資に対する新規則を導入。公衆衛生と公共安全関連への10%以上の投資には、政府の認可を義務づけた。
ドイツはEU域外の企業による買収から国内企業を保護するため、国益に反する恐れのあるM&Aを当局が阻止することを可能にする新たな規制課す方針で、エネルギーや医薬品を対象にする方向で検討しているほか、1000億ユーロ(約11兆円)の基金を新設して企業に資本注入できるようにして体力の弱った国内企業を支え、買収に対抗する――といった具合だ。
国内では6月7日から「外資規制」適用されるが...
欧州以外でも、豪州は新型コロナ感染拡大を受け、一定期間は投資額にかかわらず、海外からの全投資案件について、外国投資審査委員会が投資の可否を判断する審査を行うことにした。インドも新たな規制を導入し、「国境を接する国」からインドへの投資に政府の認可が必要とした。モディ政権は外国からの投資を呼び込んで成長を図る政策を進めているが、新型コロナに乗じた買収を阻止したい考えだ。隣国では、イスラム教国であるパキスタン、バングラデシュからの投資は従来から認可制で、今倍の措置は中国を狙いうちにしたのは明らか。これに対し中国は「世界貿易機関(WTO)の無差別原則に反する」と強く反発している。
中国を警戒する米国は2月に対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化し、ベンチャー企業を含め、前端技術や重要インフラ関連企業を中国勢が買収するのを困難にする処置を採用済み。
日本は、新型コロナとは関係なく進めていた外資規制が、ちょうど6月7日に適用される。2019年10月29日にJ-CASTニュース(「外資規制強化 拍手の産経、危惧する日経...<略>」)で解説したが、重要な分野で、海外投資家が1%以上の株式を取得する場合、原則として事前に届け出が義務付けられる(従来は10%以上を規制)。対象は武器、航空機、宇宙、原子力、電力その他のインフラなど12分野、政府はすでに、518社の具体的な企業リストも公表している。新型コロナを受け、医薬品、医療機器分野を規制対象に加える方針も打ち出している。
ただ、規制の強化は、国境を越えたカネの流れを抑え、景気回復の足かせになりかねない。日本の場合、海外からの直接投資の拡大はアベノミクスの成長戦略の重要な柱でもあり、「2020 年に対内直接投資残高 35 兆円」との目標も掲げている(2018年末で30.7兆円)。対日投資は台湾企業に買収されて復活したシャープのように、企業の体質改善に結び付きうる。裏を返せば、市場原理が働かず、効率の悪い企業が温存され、日本経済全体の構造改革を遅らせかねない懸念もある。
トランプ政権の発足を契機にした自国第一主義の台頭に加え、コロナ禍を受けて外資規制の動きが強まる中、単に守りに走るのでなく、いかに経済活性化とバランスをとるか、世界が模索していくことになる。