外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(4) 「自粛」が「萎縮」になってはいないか 今こそ専門家は発信を!

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これからの北海道の産業、文化・教育

   新型コロナの実態が多少見えてきたところで、司会の吉岡さんが、北海道二十一世紀総合研究所の木本晃さんに、地元経済への影響はどうか、と話を振った。2年前に退官するまで道庁で観光行政を担ってきたプロだ。木本さんは「経済の見通しは立たない。できることからやっていくしかない」と前置きをしたうえで、資料を示しながら、こう話した。

「昨年道が発表した観光客入込客数でいうと、観光に訪れた5520万人のうち、外国人は312万人。うちアジア系が86%を占め、新型コロナでインバウンドが途絶えると打撃になるのは間違いない。ただ、客全体の83%は道民なので、これまでは国内分が減った分をインバウンドで補ってきたと言っていい。これからは、インバウンド頼みから、道民、国民に軸足を移すことが必要だ」

   そう述べた上で木本さんは、第一次産業の比重が高い道の場合は、今後、物流をどう確保するかが鍵になると注意を喚起した。不幸中の幸いで、今のところ、電気ガス水道に加え、物流のライフラインも滞ってはいない。しかし、千歳からのアジア向け航空機便がほとんど欠航し、オホーツク産の帆立貝が値崩れするなど、すでに影響は出始めている。木本さんが言うように、インバウンドの減少だけでなく、輸出入の目詰まりも注視する必要があるだろう。

   ここで司会の吉岡さんは、農業や漁業の一大産地・十勝を地盤とする元衆議院議員の石川知裕さんに話を振った。「十勝の感染者は3人だが影響は大きい」と切り出した石川さんは、こう話す。

「非常事態宣言が出されて以降、経済が冷え込んでいる。地域間の移動を避けるのは仕方がないが、域内ではもう少し、経済活動を活発化させてもいいのではないだろうか。感染者が少ないのに休校し、公園も有刺鉄線を張って使用を禁じている。うちにも2人の子がいるが、スーパーもダメ、小さな公園に行ってもダメ、となると皆さん不満を感じている。振興局ごとに、もう少し対応が違ってもいいのではないか」

   ここで司会の吉岡さんは、かねて石川さんが提唱してきた「9月新学期」について尋ねた。石川さんは、コロナ禍を機会に、「9月入学」というグローバルスタンダードに切り替えるべきだと主張してきた。

「かつて東大が9月入学を提唱したこともあったが、企業や予算の会計年度が4月で始まるため、見送られてきた。しかし、もともと2月の試験はインフルエンザや悪天候のリスクがある。今では大学院は海外からの留学生で成り立っており、9月の方が入学しやすい。今年だけというのではなく、社会全体で9月入学を検討してもいいのではないか」

   教育に話が及んだところで司会の吉岡さんは、北海道演劇財団専務理事の斎藤歩さんに話を振った。自ら「札幌座」を率いる作・演出家・俳優であり、テレビや映画でも活躍している。財団では、役者を全道の学校や施設に派遣し、コミュニケーションのワークショップを開くことに力を注いできた。演劇人は、ふだんアルバイトをしながら生計を立て、舞台に打ち込んでいる。せめてワークショップの「講師料」を収入の足しにしてもらう一方、子供たちにも演劇を身近に感じてもらい、ファンの裾野を広げていきたい、という狙いだ。今、演劇人はつらい立場に追い込まれている。

「ぼくらは、ともかく人が集まらないと何もできない。でも今は、人を集めることがためらわれる。2月末に公演が中止になり、できれば春に、と思っていたが、まだ難しい。学校や地域のワークショップに派遣する役者が10人ほどいるが、休校でそれもできない。ぼくより10歳若い連中がもつかどうか気がかりだ。ネットを使って彼らに対価を支払えないか、知恵を絞っていきたいと思う」

   ここで、先ほど「観光の軸足を国内・道内に」と言った木本さんが提案した。

「演劇も、軸足を道内やご近所に移してはどうか。北海道の人は、まだまだ道の観光を楽しんでいない。北海道文化の魅力も、道産子が外に向けて説明できるほどには知っていない。地元の人がもっと足元の文化や観光に親しむいいチャンスかもしれない」
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