外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(4) 「自粛」が「萎縮」になってはいないか 今こそ専門家は発信を!

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エビデンスをめぐる問題と医療現場の実態

   ここで市民グループ代表のNさんが、人口約530万人の北海道で感染者がまだ50人未満の段階でも独自の緊急事態宣言が出されたことに疑問を感じ、道に問い合わせた時のことを話した。「道の担当者は、短期間で感染者が10人ほど増えたためと説明したので、では20歳未満の感染者が3人しかいないのに、全道休校までする必要があるのかと重ねて尋ねたら、『未知のウイルスだから』と言うのみで、はっきりとしたエビデンスは示されませんでした」と疑問の声をあげた。

   この日は北海道医療大学で臨床看護学講座を担当する塚本容子教授も参加していた。政治や経済など、一方向に流れがちな議論を、わかる範囲の事実で裏打ちし、現実に連れ戻す貴重な役割を果たしてくださった。塚本さんが言う。

「確かに、十分な説明がなされているとは言えません。緊急事態宣言が出された当時、若い人には無症状の人が多いと言われた。でも無症状でも感染した若年者が高齢者にうつすと、80歳代以上では致死率20%、基礎疾患が三つあると半数程度が亡くなると言われました。アイスランドのデータでは、陽性患者の半数に症状がなかった。つまり知らず知らずのうちに感染させてしまう。スペイン風邪もそうだが、感染を阻止するには、社会的隔離しかないという現実がある。通常のインフルエンザは簡単には肺炎を起こさないが、新型コロナは肺で繁殖し、劇症化しがちです。経済的補償も大事だが、非常事態宣言は致し方ないと思う」

   ここで塚本さんは、北海道の医療現場の実態を報告した。北海道では、鈴木直道知事が2月28日、いち早く独自の緊急事態宣言を出して外出自粛を求め、一時は感染が沈静化して3月19日に宣言を終了した。しかし、札幌を中心に、この会議が開かれたころには再び感染が急上昇していた。病院や介護施設などのクラスターで集団感染が起き、経路をたどれない市中感染も増えていた。塚本さんは言う。

「北海道では、コロナ以外の患者さんの受け入れ先を探さないと、現場が回らなくなっている。ある介護施設では、重症者の入院先が見つからず、介護崩壊に直面している。命の線引きが始まっている。医療従事者も疲弊しています。ガウンやマスクは中国からの寄付でまかなっているのが現実で、使い回しをしながら、皆さん、恐怖を感じながら働いている。軽症者が療養するホテルでも、診る人が足りない。消毒薬が足りず、ホテルのボディソープで手を洗っているのが現状です」

   ここでNさんが塚本さんに質問をした。

「厚生労働省の資料を読むと、今回の新型コロナは指定感染症なので、うち1~3類に当たるとされています。医療機関の負担を考えると、5類にした方がいいのではありませんか」

   これには補足が必要だろう。政府は1月28日、新型コロナウイルスを感染症法の「指定感染症」にすると閣議決定した。感染症法は危険度に応じて1~5類に分け、その対応を定めている。今回は1~3類に相当するとしたため、患者は知事の入院勧告に従わない場合は強制入院の対象となる。医療費は公費で負担し、診察した医師には届け出の責任が生じる。かつて1類にはエボラ出血熱、2類には重症急性呼吸器症候群(SARS)などが指定された。今回は、国民の健康に大きな影響を与える恐れがあるとして、1~3類相当とした。

   Nさんの疑問は、軽症者の多い新型コロナの患者を1~3類相当としたため、「強制入院」の縛りが、医療現場に過剰な負担を強いているのでは、という意味だ。むしろ、通常のインフルエンザのように、5類に指定して、柔軟な対応を取るようにしたほうがいいのでは、と尋ねた。これは私も日ごろ抱いていた疑問だった。塚本さんの答えはこうだ。

「80%が軽症というが、フリーアナウンサーの赤江珠緒さんのように、軽症で自宅療養をしていて2週目に肺炎で入院(のち退院)した例もある。軽症者が重篤化し、自宅療養中に亡くなるケースが報告されています。1~3類か5類かといった問題ではなく、わかっていないことが多い。アメリカでは1週目で軽症だった人が2週目にICUに入る例もあった。最初に軽症だから大丈夫ということにはなりません」

   そのうえで塚本さんは、医療現場だけでなく、集団感染が広がる介護施設の負担が限界に達しており、そのテコ入れも急務と話した。

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