新型コロナウイルスの影響で休業を余儀なくされている企業の雇用を維持するための雇用調整助成金について、安倍晋三首相は2020年5月14日夕の記者会見で、従業員1人あたり1日8330円だった上限額を1万5000円に引き上げる方針を明らかにした。
安倍氏によると、この1万5000円という金額は「世界で最も手厚いレベル」だが、実際のところはどうか。各国の似たような取り組みを整理した。
韓国の観光業や運送業は「特別雇用支援業種」に
安倍氏は記者会見で、追加の経済対策を盛り込んだ20年度第2次補正予算案を編成する方針を表明。その中で雇用調整助成金について、
「1日8000円余りが上限となっていた助成額を、世界で最も手厚いレベルの1日1万5000円まで特例的に引き上げます」
と述べた。これ以外にも、従業員が直接申請して受け取れる新たな制度も設ける。
「雇用維持支援金」という、日本と似たような名前の制度を設けているのが韓国だ。中小企業の場合、従業員1人あたり日額6万6000ウォン(約5700円)を限度に、企業が支払わなければならない休業手当の67%まで支給する。3月中旬には、特に影響が大きい観光業や運送業を「特別雇用支援業種」として、限度を休業手当の90%まで、1日最大7万ウォン(約6100円)に引き上げた。適用期間は9月15日まで。
欧米各国と比べてみると?
英国政府は3月20日、企業の規模にかかわらず、一時帰休状態の従業員1人あたり月額2500ポンド(約32万7000円)を上限に、賃金の80%を助成することを発表。3月1日にさかのぼって3か月間にわたって適用されるが、必要に応じて延長される。仮に日本の労働基準法で定める「週40時間」に収まるように、月に22日働くとすると、1日あたり1万4800円程度だ。
ドイツ政府が3月23日に発表した経済対策では、従業員がいない個人事業者と従業員5人未満の企業には3か月で最大9000ユーロ(約104万円)、従業員数が6~10人の企業は3か月で15000ユーロ(約174万円)が助成される。場合にとっては、2か月間受給期間を延ばすことができる。同様に月に22日働くとすると、従業員10人の企業の場合で1日あたりの支給額は約2700円だ。
紆余曲折あるのが米国だ。3月27日に成立した法律の中に盛り込まれた「給与保障プログラム(PPP)」が中小企業支援の柱とされた。従業員500人以下の企業が雇用を維持すれば、給与や賃料を政府が融資するという制度だ。
当初は約3500億円の融資枠が割り当てられたが、多くの資金が比較的大規模な企業に回り、2週間で資金が底を突いた。米議会は3100億ドルの追加支援を承認したが、小規模事業者に資金が行き渡るかは不透明で、トランプ大統領は5月13日、融資を受けるにふさわしくない企業が14日までに返金しなければ「政府が追及する」と警告した。
これとは別に、各州が支給する通常の失業給付に加えて、連邦政府が週600ドル(約6万4000円)を加算して支給する特例を適用している。週に5日働くとして、1日あたり約1万3000円。職場復帰が可能な一時帰休や無給休暇の取得者からも申請が相次いでいる。
これまでの経済政策は低評価だったが
それぞれ受給のための条件が異なるため、一概には比較できないが、日本の1万5000円という金額が「世界で最も手厚いレベル」という表現は、こういった例を見る限りでは一定の理がありそうだ。
一方で安倍氏がこうした姿勢を強調した背景には、これまでの経済的支援策への「不評」が考えられる。2020年4月27日から5月1日にかけて世界5か国で行われた世論調査によると、日本国民の自国政府への評価は、他の4か国と比べてきわめて低い。その背景として、調査を行ったPRコンサルティング会社の「ケクストCNC(Kekst CNC)」日本最高責任者のヨッヘン・レゲヴィー氏は5月12日に行った会見で、日本での死者数が他の4か国に比べて少ないことを指摘した上で、
「日本は必ずしも、国民を守るという意味では極端な失策をしたというわけではない。日本国民の不満が大きい理由は、経済的支援策にあると思う」
などと話している。実際、この調査では、
「自国の政府が必要な事業支援をしている」
「自国政府が発表した事業支援策が、実際に必要としている会社に届いている」
という問いに「そう思う」と答えた人の割合が、日本では他の4か国と比べて格段に低かった。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)