巣ごもりの恩恵を受ける任天堂は、2021年3月期の純利益が前期比22.7%減の2000億円と2桁減益を見込む業績予想を発表した。
足元で新作ゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」が大ヒットするなど需要が高まる一方で、供給側にボトルネックが起きることを任天堂自身が心配しているためだ。
「攻略本求めるファンが書店に行列」のニュースも
「あつまれ どうぶつの森」は通称「あつ森」として親しまれている。「どうぶつの森」シリーズは「ニンテンドーDS」や「Wii(ウィー)」など任天堂のゲーム機向けに制作されている定番ソフト。「あつ森」は従来の「村」から「無人島」に舞台を変えたゲームで、「ニンテンドースイッチ」用のソフトとして3月20日に発売。パッケージ版とダウンロード版があり、いずれも希望小売価格は5980円+税。
3月末までの12日間だけで世界で1177万本を販売し、「スイッチ向けとしては過去最大の滑り出し」(任天堂)を記録している。「どうぶつの森」シリーズは任天堂のゲームソフトの中では女性ユーザーが多いとされ、スイッチ発売から4年を経過しての投入ながらスイッチ本体の購入者層を広げるとも見られている。
異例のヒットにまつわるエピソードには事欠かず、紀伊國屋書店新宿本店が自主休業を終えて営業を再開した5月7日、通信販売で品薄になっていた「あつ森」の攻略本を求めるファンが開店前から行列を作ったことが報じられた。
盛り上がるゲーム需要についてはこんなデータもある。総務省が5月8日に発表した3月の家計調査。前年同月比での支出の実質増減率を項目別に見ると、ゲーム機は2.7倍、ゲームソフト等は2.6倍だった。鉄道運賃が65.2%減、タクシー代が44.7%減、宿泊料が55.4%減の一方、パスタ44.4%増、冷凍調理食品22.2%増、チューハイ・カクテル22.8%増と巣ごもり用に消費が向かう中でも、単価が高いこともあって突出してゲーム関連の支出が増えたことを裏付けた。
こうしたこともあって任天堂が5月7日に発表した2020年3月期連結決算は売上高が前期比9.0%増の1兆3085億円、純利益が33.3%増の2586億円で2桁増益を果たした。
2021年3月期の業績予想に「保守的過ぎる印象」との指摘も出たが...
しかし、同じ日に公表した2021年3月期の業績予想は売上高が前期比8.3%減の1兆2000億円、営業利益が14.9%減の3000億円、純利益が22.7%減の2000億円と一転して減収減益となると見込んだ。「保守的過ぎる印象」(SMBC日興証券)との見方もあるが、市場予想の平均(営業利益は3677億円)よりも低かったことで翌日の株式市場は売りで反応、株価は一時、前日終値比5.6%(2590円)安の4万3510円まで下げた。
減収減益を見込む要因としては対ドル、ユーロで円高を織り込んだこともあるが、スイッチとそのソフトの販売が足踏みすると見ていることが大きい。自動車メーカーが年間の販売計画を明らかにするように任天堂は主力ゲーム機などの販売見通しを公表しており、それによると2021年3月期のスイッチの販売台数は前期比9.7%減の1900万台、スイッチ向けソフトは17.0%減の1億4000万本にそれぞれしぼむ。
任天堂によるとその背景にあるのは供給のボトルネック懸念だ。2020年3月期も各地でスイッチは品薄だったが、その状況は収束しておらず、21年3月期も販売機会を失う心配がある。すでに足元で必要な部品の調達に支障をきたしており、それが深刻化すれば「製品の供給に支障をきたす可能性がある」としている。また、在宅勤務が進むことで他社を含めてゲームソフトの開発スケジュールに影響し、「コンテンツの供給が予定どおり行われない可能性がある」とした。物流が停止した場合の通信販売などへの影響もありえるという。
とはいえ、供給を上回るような需要があるとしたら贅沢な悩みとも言える。任天堂の決算発表後、野村証券がリポートで「(あつ森は)まず20~30代の過去作ファンが購入、その後新規ユーザーが参入するなど新しい広がりを見せている。(ゲーム機の)商品ライフサイクルの長期化へ向けた起爆剤の一つになり得る」と指摘するなど、株式市場の期待も低くはないと言えそうだ。