事務用複合機、カメラ大手のキヤノンが、新型コロナウイルスの影響で難局に立っている。屋台骨の事務用複合機はもともとペーパーレス時代の進化によって市場縮小に直面してきたが、コロナは景気低迷をひき起こしながら世界的なテレワーク拡大を呼び込み、キヤノンの急所を突く。
デジタルカメラはスマートフォンのカメラに飽き足らない人の嗜好品になりつつあり、コロナ後の急激な需要回復は見込みにくい。4月23日の2020年1~3月期連結決算(米国会計基準)発表に合わせ、1月に公表した2020年12月期の業績予想を撤回し「未定」とした。期初計画はすべてご破算の覚悟で難局に臨む。
2本柱のオフィス機器とカメラだが...
まず、1~3月期決算の内容を確認しておこう。純利益は前年同期比30.0%減の219億円で、同時期としてはリーマン・ショック直後以来11年ぶりの低さだった。売上高は9.5%減の7823億円、営業利益は18.7%減の328億円。コロナの業績への影響は売上高で500億円弱、営業利益で約200億円という。コロナの影響は4月以降に深刻化し、かつその規模が読めないだけに、「業績予想の合理的な算定は困難」として期初に売上高3兆7000億円(前期比3.0%増)、営業利益2300億円(31.7%増)、純利益1600億円(27.9%増)とした通期の業績予想を取り下げ、「算定が可能になった時点で速やかに公表する」とした。
ここでキヤノンの展開する主要2部門とその規模感をみてみよう。最も大きいのは事務用複合機やレーザープリンターなどの「オフィス」部門。2019年12月期の売上高は1兆7026億円でキヤノン全体の半分弱、税引き前利益は1743億円でキヤノン全体の6割超を占める。ペーパーレス化の逆風などで5.8%の減収、23.9%の減益だったが、現在84歳の御手洗冨士夫最高経営責任者(CEO)が進めた「選択と集中」によって育て上げた大黒柱であることには変わりない。
その次に位置するのが「イメージングシステム」部門で、レンズ交換式デジタルカメラやインクジェットプリンターなどが含まれる。2019年12月期の売上高は8074億円で全体の2割超、税引き前利益は497億円で全体の2割弱。こちらも市場縮小などの影響で16.8%の減収、62.1%の減益だった。
入学式・卒業式中止でカメラも売れない
ちなみにカメラ映像機器工業会が発表した2020年3月のデジタルカメラの世界出荷は前年同月比52.2%減の59万台。日本では卒業式や展示会などのイベントが相次ぎ中止になった影響が出たようだ。4月以降はコロナの影響がより深刻化するとみられる。キヤノンはインクジェットプリンターが2020年1~3月期に在宅勤務とオンライン授業による需要増によって前年同期より販売数が多かったと説明しているが、株式市場では「ペーパーレス化は不可逆的で需要増は一時的」との見方がある。
こんな風に主要2部門の事業は成熟化しているのだが、リーマン・ショック後に進めたM&Aなどによって無論、次の一手を打っている。それが、今後の成長事業と位置づける商業印刷、ネットワークカメラ(監視カメラ)、医療機器、産業機器の4分野だ。
次世代の大黒柱は育つか
2020年12月期に全社の売上高に占める4分野の割合を30%にすることが目標で、2019年12月期は25%程度とまずまずの位置につける。特にネットワークカメラは用途多様化と更新需要を背景に市場拡大が続いている。産業機器では有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)の関連機器の需要が伸びており、2020年1~3月期に新規4事業は全体として増収増益だった。
このほか、系列会社ではまさに目下の課題であるテレワーク支援システムも展開する。
ただ、これら新規事業がなお競争力の高い事務用複合機やデジタルカメラに代わる大黒柱になるには心許ない。コロナによる景気低迷とペーパーレス化はキヤノンに新規事業へのシフトの加速を求めているようにも見える。