新型コロナウイルスの対策をめぐる質問に安倍晋三首相が答える番組が2020年5月6日夜に「ニコニコ動画」、Yahoo!などで放送され、ノーベル医学生理学賞受賞者で京都大iPS細胞研究所の山中伸弥教授が安倍氏の発言をさえぎって突っ込む場面があった。
安倍氏は2020年4月に始まったばかりの給付型の奨学金の活用を呼びかける一方で、山中氏はその対象に大学院生が含まれていないことを指摘。安倍氏は繰り返し奨学金が「給付型」だという点を強調したが、受給までにはハードルが高かったとして、すかさず「できるだけ給付型の奨学金の割合を増やして頂けたら」とクギを刺した。
「是非、大学院生の存在も頭に入れて頂けたら」
奨学金をめぐるやり取りがあったのは、約1時間にわたる番組の中盤。大学生や大学への支援の規模に関する質問に対して、安倍氏は各大学に対して授業料の納付、減免について要請したことに触れた上で、奨学金について
「この4月から高等教育の無償化が5400億円の予算でスタートした。その中で給付型の奨学金という制度が始まった。これを今回のコロナウイルスで大きく経済状況が変わった皆さんも利用できることになる。1年間に91万円の給付がいく。ぜひ、これも活用していただきたいと思う」
「大切なことは、たくさん制度はあるんですね。そのことをまだご存じない方もおられますから、先ほど申し上げたような、給付型の奨学金も活用していただきたいいと思いますし、学費を納付しなくても除籍とかにはなりませんから、どうか安心していただきたい」
などとアピール。直後に山中氏が司会の馬場典子アナウンサーから発言を求められ、大学院生の窮状を訴えた。
「私たちの研究所には、大学院生がたくさんおります。修士課程、博士課程...。もしかすると、彼らが、もしかしたら一番困っているかもしれません。20代後半、30代の人がいて、結婚もして子どもおられる、ご主人もおられる。そういう形で、今バイトもできない」
「今、大学院生が(発言の中に)入っていませんでしたので、是非、大学院生の存在も頭に入れて頂けたらと思います」
「大学院生の存在」指摘されたのに「給付型」強調
ただ、この時点では安倍氏は奨学金が「給付型」だという点を強調し、話はかみ合わなかった。
「ちょっと付け加えさせていただきたい。先ほどの私の奨学金のコメントについて『返さなければいけないではないか(という指摘があった)』。給付型ですから、返していただく必要がない」 「これは返さなくていいものでありますから、是非活用していただきたい」
そこで司会の馬場典子アナウンサーが、大学院生も給付型奨学金の対象に含まれるか改めて安倍氏に確認し、安倍氏は「将来の課題」などと応じた。
「大学院の方ですか?大学院の...これはあくまで学部ということでありまして、今後ですね、将来の課題として、大学院ということも考えていかなければならないと思っています」
そこに山中氏が割って入った。自らの経験をもとに、給付型の受給へのハードルの高さを訴えたかった様子だ。
「給付型はですね、私も学生の時に給付型の奨学金を確か月3万円ぐらい頂いて、本当に助かって、そのお陰で医者になれたようなものなんですが、ただやはりだいぶ敷居が高くて競争率が高くて、なかなかもらえる人が限られていました。ですから、今、給付型をもらいたいと思っても、なかなかもらえない人もいるんじゃないかな、と思います。その辺の件数がどうなっているか、最近のことはよくわかっていないので、そのあたりもできるだけ給付型の奨学金の割合を増やして頂けたら、本当にたくさんの学生さんが助かると思います」
91万円受け取れるのは「私立大の下宿生」「住民税が非課税の世帯」
安倍氏は
「今申し上げた5400億円という予算なんですが、義務的経費でありますから、予算を上回る対象者がいればですね、当然それに対して対応していく、ということになりますから、そこはご安心頂きたいと思います」
などと引き取って次の話題に移ったが、ニコニコの画面には
「その通りだ山中さん」
「素晴らしい牽制球です」
「大学院生大事にしてね」
といったコメントが飛び交った。
山中氏が受給した給付型奨学金とは条件が違うため単純には比較できないが、安倍氏が言及した給付型奨学金も、通う学校の種類や収入状況など、支給には様々な条件があるので注意が必要だ。
安倍氏が今回の番組で言及した給付型奨学金は、19年5月に成立した低所得世帯の高等教育の負担を軽減する関連法で、消費税の増税分を財源に支給が決まった。「年額91万円」が支給されるのは私大の下宿生の場合で、実家から通う人は約46万円。国公立の下宿生は約80万円で、実家通いは約35万円だ。これとは別に、私立大に通う学生で最大年約70万円、国公立大なら約54万円の授業料が免除される。この上限額を受け取ることができるのは住民税が非課税の世帯で、世帯年収の目安は300万円以下だ。400万円以下で上限額の3分の2、460万円以下で3分の1の支援が受けられる。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)