使い捨てマスクの品薄が続く中、スポットライトが当たるのが「手作りマスク」だ。自分や身近な人のためはもちろんのこと、施設などへの寄付のためにも、全国で多くの人がマスク作りを手掛けている。
一方で、その材料や道具を求めて、人々が各地の手芸店に詰めかける状況も起きてしまっている。現場の従業員からは悲鳴が上がり、「#手芸店コロナSOS」といったハッシュタグも、ツイッターでは拡散する。
「感染リスク拡大 クラスター発生しかねない」
「31日まで手芸店休ませてくれないか。疲れたよ。客減るどころか増えて感染リスク拡大クラスター発生しかねないんだけど。どうにかしてよ」
「絶えぬ行列、30cmカット地獄、釣銭切れ、容赦ない家族連れの大騒ぎ、どこからでも飛び交う質問の嵐、GW、始まったんだなぁ...... マスク何個作るんだよ、10反30cm買ってさー(怒)」
「ゴムもガーゼもたくさんのお客様に行き渡るよう1世帯1つにしていますが、何度も並ぶおば様が多く本当に困っています。注意すると逆ギレするのは何故ですか?ポップが見えませんか?忙しい中でも従業員はお客様の顔覚えてます。最近は特に覚えるようにしてます」
これは、ツイッターで「#手芸店コロナSOS」というハッシュタグとともに書き込まれているつぶやきの、ほんの一部だ。
新型コロナウイルスの流行拡大の中で起きたマスク不足問題。こうした中、代用品として注目を浴びたのが「手作りマスク」。Googleトレンドのデータによれば、「マスク 手作り」「マスク 作り方」といったキーワードの検索件数は、ピークの2020年4月前半には、1月時点の100倍以上に増加している。
テレビからネットまで、メディアもこぞってこれを取り上げたほか、最近では単なる代用品ではなく、小池百合子都知事のような、デザインにもこだわった「おしゃれ」なマスクも話題だ。
また、子どもたちも含め、ボランティアでマスクを作り、自治体や学校、各種の施設などに寄付する動きも。自治体や企業、メディアなどが、買い上げという形で、広くマスク作りを呼び掛けるようなアクションも出ている。
不慣れな層が殺到し、従業員は疲弊
こうした「手作りマスク」人気の影響を受けているのは、しかし現場だ。
上に挙げた「#手芸店コロナSOS」のハッシュタグのほか、J-CASTニュースの情報提供フォームにも、4月半ば以降、複数の手芸店関係者を名乗る人物からのメールが複数寄せられた。そこからは、材料となる生地やゴム、そして作るためのミシンなどを求めて、手芸店に客、しかも不慣れな層が殺到し、従業員を疲弊させている姿がうかがえる。
「ガーゼはどこ?この色しかないの?この柄しかないの?どのくらい買えばいいの?ゴムはどこ?この太さしかないの?糸はどこ?どれ選ぶの?どうやって作るの?型紙ないの?うまくできないんだけど?作ってくれないの?ミシンないんだけど等等等等等.........
当店は洋裁教室ではありません。
自分で使う素材を決めて、自分で用尺を決めて購入する、手芸屋はそういう店なんです」(都内の手芸店で働いているというAさん)
「目の回るような忙しさの中で働いています。
自分が感染していないか、家族にうつしてしまわないか、恐怖と隣り合わせの毎日です。
店長は過去にないほどの売り上げに喜んでいますが、私達には関係のない話です。何の見返りもありません。
新聞・テレビ・ネットで、マスクを手作りしよう、という記事をよく見掛けますが、現場はこうなっていることを知って頂きたいです」(関西地方の手芸店で働いているというBさん)
マスコミ報道で広まった「寄付マスク」も一因
こうした情報提供者の一人である、中部地方で手芸店を営んでいるという女性に電話で話を聞いた。
女性の店でも、新型コロナウイルスの流行以来、客の数は2~3倍に増えているという。時短営業を行い、入場制限などもかけているのに、この数字だ。
「スーパーがよくテレビでは取り上げられますが、実際には客の流れもある程度決まっていますし、空間も広く、『密』になるのはレジくらいでしょう。しかし手芸店は一般的にお店も狭いし、客もあっち見たりこっち見たりと時間がかかる。店員も、生地のカット、そしてレジと客と接することになります。特にガーゼだと、普通より切るのに時間もかかる。『3密』という意味では、パチンコどころではありません」
来る客層も、普段の手芸愛好者とは明らかに違い、上にも挙げた「購入制限を無視しての逆ギレ」「店員への質問攻勢」「家族連れの大騒ぎ」といったトラブルが、女性の店でも相次ぐ。
特にこの女性が疑問だというのは、「寄付のためにマスクを作る」というムーブメントだ。こうした話題がニュースに取り上げられて以来、学生など若い層も含め、マスクの材料を求めて来店する客が増えている。しかし、女性は、贈られた側の負担も考えると、場合によっては「自己満足」に終わりかねないのでは――と警鐘を鳴らす。
「寄付ではなくて、自分や自分の大切な人のためのマスクなら、着古した衣類など、手元にあるもので作れます。そういうことが、本来大切なんです。それでも足りないものがあれば、お店に行く。それが不要不急の外出を控える、自粛するということじゃないでしょうか」
テレビなど、マスコミの影響も感じている。普段ならば、取り上げてもらえることは嬉しいが、過熱する状況には「責任を取って」という本音も。小池都知事などの「おしゃれマスク」が話題になると、「自分も作りたい」という客が押し寄せ、またそれが負担になる。
「テレビでも手作りや工作などをいろいろ特集していますが、もっと『家にあるものを使って』という方向に工夫してもらえないでしょうか。そして、どこのチャンネルを見ても、スーパーやパチンコばかりが取り上げられています。手芸店も含め、それ以外のお店の状況ももっと伝えてほしい」
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