「世界大恐慌より厳しい」(安倍晋三首相)と言われ始めた、新型コロナウイルスが経済に及ぼす影響。国民1人当たり10万円の一律給付など過去に例のない大型の緊急経済対策の財源として発行する国債(国の借金)の規模も過去最大になる。それを支えるために日本銀行は「年80兆円をめど」としていた国債の買い入れ枠の撤廃に踏み切り、政府と歩調を合わせて有事対応の構えを示した。
日銀は2020年4月27、28日の予定だった金融政策決定会合について、参加者の感染リスクを下げるために27日午前のみに短縮して開催した。会合後の記者会見で、黒田東彦総裁は「長期金利を0%程度で安定させるため、(国債を)必要なだけいくらでも買う」と宣言して、市場に国債があふれて金利が上昇するのではないかというマーケット関係者の懸念を払拭しようと努めた。
従来は「年80兆円をめど」
一般的な市場原理では、国債を多く発行すると需要(買い手)を供給(売り手)が上回り、価格が下落(金利は上昇)し、国債を発行しにくくなる。これまでも日銀は「年80兆円をめど」とする国債の買い入れ枠を設けて、政府が予算を膨張させて国債の発行額を増やしても、市場からどんどん国債を買っていたから、世の中の金利の基準となる国債の長期金利が抑えられていた。政府が2020年4月に決定した緊急経済対策を実施するために必要な財政支出は約26兆円で、全額を国債の追加発行で賄う。
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大によって日本のみならず欧米の経済活動はほとんど停止し、感染が先行した中国も、生産などが以前の水準まで戻るには相当の時間が必要になる見通しだ。日本では訪日外国人を顧客としてきた宿泊業を中心に企業の経営破綻が相次いでおり、今後は感染拡大の影響で経営状態が急速に悪化している航空会社や自動車メーカーの動向に関心が集まる。
こうした状況下では、民間企業に対する公的資金の注入も含めた追加の経済対策は不可避だとの認識が永田町や霞が関では一般的になりつつある。そうなれば国債の発行額も雪だるま式に拡大していく。日銀が国債の買い入れ枠の撤廃を決めたのは、まさに、こうした政府の危機対応に呼応したものとみられている。米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)も3月、米国債など資産を無制限に買い入れると決めており、各国の中央銀行は危機対応に躍起となる政府の資金調達をバックアップする構えだ。
「いわゆる財政ファイナンスではない」
甚大な影響が見込まれる経済危機を前にして、財政規律は取りあえず棚上げの流れが出来上がっているわけだ。大量に国債を発行しても金利が抑えられていれば利払いの負担は減るが、元本返済は将来の世代の負担となる。ただ、これだけ日銀による国債買い入れが膨らむと、中央銀行が財政赤字を肩代わりする「財政ファイナンス」に事実上なってしまう危険性もはらむ。財政の拡大に歯止めが効かなくなり、いつかは破綻してしまうという懸念だ。
こうした懸念について黒田総裁は会合後の記者会見で、金融政策上の目的のために実施する措置であり、「いわゆる財政ファイナンスではない」と反論した。アベノミクスで大量の国債を買い入れてきた日銀は、これまでも保有する国債残高の削減に向けた「出口戦略」の難しさが指摘されてきたが、今回の買い入れ枠の撤廃によって困難さは別次元に高まる。日銀の金融政策は未知の領域に入ろうとしている。