「責任者の方は、明日店舗の鍵を開ける責任の重みを今一度考えて下さい」「自らが社会的加害者であるのみならず、痛みに耐え懸命に営業自粛している同業他社に計り知れないダメージを与えている」――。岐阜県遊技業協同組合(県遊協)が県内のパチンコ店に対し、休業を求める通達を出していたことが分かった。
その影響もあってか、岐阜県は2020年4月30日、県内の全156店舗が休業したと発表した。一方で、他県では営業を続ける店もある。県遊協の大野春光理事長(63)はJ-CASTニュースの取材に「休業が社会的責任だと言われるのは辛いですが、いたしかたない」と協力を求める。
その上で、休業で「生き延びられるのは半分いるか(わからない)」と危機感も示す。
感染対策、どれだけ訴求しても「世論の理解は得られません」
通達は27日、大野理事長の名義で県内のパチンコ店の経営者と従業員に出された。大野氏は「お仏壇の春堂」で知られる仏壇・仏具販売店「大野春堂」(岐阜市)の社長で、同社の関連会社はパチンコ店を経営する。
「単刀直入に申し上げます」と切り出した文章は、次のように続く。
「緊急事態宣言前は、パチンコは三密ではないし、しっかりクラスター防止対策をしていますと言えました。しかしながら、緊急事態宣言が発せられた今、感染対策をどれだけ訴求しても世論の理解は得られません。社員の雇用、地域社会への貢献を訴えても、既に県から休業要請が出された時点では営業継続すること自体が社会悪となりました」
そうした風潮で真に苦労しているのは「血を流しても休業を選択した店舗」だとし、「中には再開はできないかもと検討している企業も多くあると聞き及びます」と慮る。
現在も営業を続ける店には「店舗の鍵を持っている店長さん、あなたのお店の社員の健康に医学的根拠を示して安全だと宣言できますか?あなたのお店に集うお客様に対して根拠を示して、万全な感染対策ができていますか?」と厳しく追求し、
「医療機関ですら感染防止が出来ない状況で、社員を感染から守り二次感染を防止するためには、接客スタッフ全員に防護服を着用させても、完全とは言い難いでしょう。だからこその休業要請なのです。休業要請に従う事は、ホールで働く大切なスタッフとお客様を守るという姿勢の表明です。店長さんをはじめ現場の責任者の方は、明日店舗の鍵を開ける責任の重みを今一度考えて下さい。経営者なら、鍵を開けさせられる現場責任者の辛さを考えてあげて下さい」
と呼びかけた。
市民からは苦情、現場からは悲鳴
県遊協には全店の休業を求める市民の声とともに、「この状況では怖くて働けない」「社長に休むよう指導して欲しい」と従業員からの悲痛な訴えも届き、「これを読んだ経営者に店長さんは自分の部下、そして何より大切なお客様を守る為に今何をすべきか、よく考えて下さい」と営業継続の是非をふたたび問う。
大阪府の休業要請に従わず店名を公表された事例を踏まえ、「僅か数店舗の経営判断の誤りが、業界全体の社会的評価を著しく損ないます」と自社だけではなく、業界全体への悪影響もあると指摘。
「非常事態宣言前は、感染防止の努力にも関わらず、客足が遠のき、ホールはコロナウイルス禍の犠牲者でした。しかしながら岐阜県が非常事態宣言の特別地域に指定されて以降は、残念なことにホールが営業を続ける事はコロナウイルス感染の加害者の立場となりました」
と理解を求めた。
最後は、
「未だ営業を続けているホールは、自らが社会的加害者であるのみならず、痛みに耐え懸命に営業自粛している同業他社に計り知れないダメージを与えている事を改めて自省頂き、遊技業を将来に残す為にも、速やかなる休業を再度強く要請いたします」
と訴えた。
「この状況で休まないといけませんか」と半泣きで電話した経営者
大野氏はJ-CASTニュースの取材に、通達を出した経緯をこう語る。
「大阪府から公表された店舗が『自分のところは社員がこれだけいるから休業できない』といったコメントを発表したのを見て、『今それを言ってはだめじゃないのか』と思いました。もしそれを理由に営業再開を検討している店がいたら困るとの考えから通達を出しました」
経営不振の中で苦渋の決断にいたった店へ、"エール"も送りたかったという。
「休業している店は苦しいですよ。売上がないのにお金ばかり出ていく。数ヶ月前に新台を購入していた店は、店を閉めてるのに新しい機械が納品されてくる。その支払いを当然しないといけない。それと雇用調整助成金がでるとはいえ社員の雇用を守ったり、家賃などで出血が続き瀕死の状態が続いています。我々は社会に休業を求められており、それに応えているんだとのエールですね。休むことにこれだけ意味があるんだということをあらためて共有したかった」
業界大手のダイナムグループは4月28日、全国の各都道府県知事に宛てた要望書の中で、1店舗あたり月平均1900万円の経費がかかると明かしている。
18年2月の風営法(遊技機規則)改正も大きな負担となる。21年1月末までに旧規則で作られた遊技台をすべて撤去し、新規則に適合したものに入れ替えないといけない。
「今年中に全国でおよそ400万台あるうちの約200万台を入れ替えないといけないので、これからものすごく費用負担がかかってくる中でのコロナショックでみなさん途方に暮れています。ギャンブル依存症対策による規制強化で客離れもひどい状況で、コロナは決定打になりえます」
「親しい経営者も『この状況で休まないといけませんか』と半泣きで私に電話をかけてきた人もいますし、営業を続けないと会計士、弁護士から倒産は免れないと言われた店もありました。そういう人たちが休んでいる。緊急事態宣言は延長されると思いますが、生き延びられるのは半分いるか、と危機感があります」(大野氏)
すでに「コロナ破産」は起きている。民間調査会社は4月16日、東京都内でパチンコ店を運営する「赤玉」(名古屋市)が東京地裁から破産手続きの開始決定を受けたと伝えている。
施設名公表、パチンコ店のみ狙い撃ち...「画になるんだと」
各自治体は新型インフルエンザ対策特別措置法45条に基づき、休業要請に応じない施設名の公表に踏み切っている。しかし、30日現在ではパチンコ店のみが対象となっている。
この点について大野氏は、
「画になるんだと思います。設備の規模が大きくて、テレビが取材したときにパチンコホールはインパクトが大きい。多くのパチンコ店は全員がたばこを吸ってもいいように1時間に5〜10回換気する設備が以前からあります。しかも(平時は)店舗の稼働率は平均20%(5台に1人が利用の計算)くらいまで下がっているので密でもない。今残ってやっている店は各地から集まってしまっているので密になっていますが。スタッフと対面もしませんし、クラスター(感染者集団)が起きていないのはそれなりの理由があるのではと考えています」
こうした背景から、現場では休業に不満も出ているが、大野氏は「休業が社会的責任だと言われるのは辛いですが、いたしかたない」とする。
営業再開のタイミングは
業界団体としての支援について、大野氏は「県遊協レベルでは難しいので全日遊連(全日本遊技事業協同組合連合会、大野氏は副理事長を務める)でさまざまに取り組んでいます。一つ結果が出たのは、政策金融公庫、商工組合中央金庫、信用保証協会の融資・保証の対象となったことです。これまでは対象業種からパチンコは外されており、東北の震災時も対象外とされましたが、ようやくセーフティーネットに含まれました」と安堵。
公的機関からのさらなる支援の必要性には「十分な支援はいただきたいですが、全業種苦しんでいる状況なのでパチンコだけこうして欲しい、ああして欲しいとは言えない。ただ、ほかの業種と同レベルの支援はしていただきたい。少なくともセーフティーネットに入っただけでもまだ良かった」と要望した。
営業再開に向けては、「出口が見えないので困っています。自粛要請を出すのは都道府県知事なので、要請が解除された県ではそのタイミングかもしれません。判断は各県遊協の理事長ですが、解除になってもどのような施策で自主的にコロナ対策に取り組むかについて議論しないといけない」
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)