新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、スーパーやドラッグストアなどの小売企業が従業員に「特別手当」を支給する動きが広がっている。政府の緊急事態宣言が発令される中、スーパーなどは「生活インフラ」としての機能を期待され、通常の営業を求められている。ただ従業員の負担は増しており、各社とも一時金の支給によって従業員を慰労し、危機を乗り越えたい考えだ。
イオンは2020年4月中旬、傘下のスーパーやコンビニエンスストアなどで働くパートやアルバイト従業員に一律1万円の特別手当を5月にも支給することを決めた。イオンは当初、初めに緊急事態宣言が出された東京都や神奈川県など7都府県の従業員を対象に考えていたが、緊急事態宣言が全都道府県に広がったのを受け、全国の従業員に支給する準備を進めている。
ドラッグストアや家電量販店でも
セブン&アイ・ホールディングス(HD)傘下の総合スーパー、イトーヨーカ堂はパートやアルバイトを含む全従業員約4万人に、出勤に数に応じた特別手当に加え、2日間の特別休暇(有給)を付与する。ライフコーポレーションも首都圏などで展開するスーパー「ライフ」で働く全従業員約4万人に「緊急特別感謝金」(総額約3億円)を支給する。
ドラッグストア業界も、「スギ薬局」1300店を展開するスギHDが4月10日、パート・アルバイトを含む2万6000人の全従業員に「特別手当」を支給。マツモトキヨシHDも従業員への「感謝金」としてパートらを含む全2万人を対象に特別手当を出すとして、とりあえず4、5月に支給し、6月以降も状況により継続するという。
さらに、家電量販店エディオンは全従業員1万7500人に、1人平均3万2000円(総額約5億5000万円)の一時金を5月1日に支給。首都圏などでホームセンターを展開する島忠も全従業員に4万~10万円を支給する方針――といった具合だ。
人的支援の動きも
緊急事態宣言の発令に伴い、外出自粛が続く中、スーパーなどの販売額は増えており、店によっては1~2割増というケースもある。
ただ、小売業界は、感染問題以前から人手不足に苦しんでおり、ギリギリのシフトを組んで回していた店も多い。「お客様1人当たりの買い物量が増えることで、商品の補充など業務が増加しているのに加え、不特定多数のお客様と接触するため感染リスクへの不安も大きい。従業員のストレスは相当膨らんでいる」と小売関係者は話す。
さらに「なぜマスクを売っていないのか」など、客からのクレームも多く、従業員のストレスに追い打ちをかけているという。あるスーパーの関係者は「食品や生活必需品を販売し、地域の人たちの生活を守る役目を果たしていることを、お客様にも理解してほしい」と訴える。
特別手当の支給は、現場で苦闘する従業員の労に報いるというだけでなく、貴重な人材をつなぎ留めたいという願いもあるようだ。スギHDは、手当の支給を前に、本社勤務の管理職を含む7~8割の従業員を店舗の応援に出し、商品の整理やトイレ掃除などに当たらせている。今後は手当だけでなく、人的支援の動きも広がりそうだ。