コロナをめぐる分断
米国でも日本でもマスコミは、「美容院にだって行きたい」、「肥料が買えない」といった自由に行動できない不満の声を繰り返し報道した。
その報道をテレビで見たミシガン州中部にある人口3千人の町に住むアンソニー(40代)は、「彼らの本当の叫びは、明日の生活に対する不安と絶望、孤独感なのだろうと思う。自分たちもコロナに感染するのではないか、大事な人が命を落とすのではないか、という恐怖はもちろんあるはずだ。でも、それでも働かなければ、自分や家族の命を守れない人たち、これ以上、待てない人たちがいるんだ」としみじみと電話で私に話した。
「テレビやネットニュースでは、イタリアやニューヨークの悲惨な映像が繰り返し流れてくる。僕の町もそうだけれど、アメリカの多くの地域では、状況がまったく違うんだ。在宅勤務できる人はいい。でも、できない人もたくさんいる」
デモを阻止しようと、医療服を着て立ちはだかる女性に、「なぜあなたが働けて、私が働けないのよ!」と怒鳴る女性の参加者がいた。
「ここは自由の国アメリカ。社会主義国じゃないのよ」
「コロナから完全に身を守ることなんて不可能だ。そのために、市民の生活を崩壊させ、国の経済を崩壊させてもいいのか」
こうした声もある。
コロナをめぐって、この国は分断されている。
でも、抗議する自由がある。それも、アメリカだ。(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。