新型コロナウイルスの感染を調べるPCR検査について、東京都内での検査数がここ10日間ほどで減少していることが、関係者の間で話題になっている。
感染者数がやや落ちてきているのはそのためではとの見方もあるが、現状はどうなっているのだろうか。
山中伸弥教授「検査していないから、感染者減っている」
「東京の感染者数は減少しているのか?」。京都大学の山中伸弥教授は、自らの新型コロナウイルス情報発信のサイト上で、こんなタイトルで疑問をぶつけた。
都内の感染者数がここ10日間ほどでやや減少していることから、政府の専門家会議が2020年4月22日、その増加は鈍化しはじめているとの認識を示したことに反応したようだ。
山中教授は、都のサイトで公表されている検査実施件数のグラフを示し、こう書いた。
「検査件数を見ると愕然とします。検査件数も同じように減っているのです。つまり感染者数が横ばいや減少しているように見えるのは、単に検査をしていないからだけなのです」
検査件数に対する陽性者の割合である陽性率を計算すると、4月は19%にまで上がってきており、件数でなく人数で割ればさらに高くなると指摘。「これは危険領域です。非常に多くの陽性者を見逃している可能性が高いと推定されます」と警告した。そして、「感染者数のみで一喜一憂するのではなく、真の姿をとらえる必要があります」と太字で強調している。
街中に潜在的に多くの感染者がいる可能性を示したデータとして、慶應義塾大学病院が病院長名で21日にサイト上で発表した調査結果が注目された。
「市中での感染はより蔓延している可能性」
その調査によると、新型コロナ以外の治療に来た無症状の患者67人に対し、同大学病院が4月13~19日に行った術前・入院前のPCR検査で、4人の陽性者が確認され、全体の約6%を占めた。この結果について、「院外・市中で感染したものと考えられ、地域での感染の状況を反映している可能性があり、感染防止にむけてさらなる策を講じていく必要がある」と病院長は述べている。
山中教授は、自らのサイト上でその後、「東京の感染者はもっと多いかも」のタイトルでこの調査結果に触れ、「より多くの検査が必要であるが、市中での感染はより蔓延している可能性がある」と言っている。
慶應義塾大学病院の調査について、神戸大学大学院の岩田健太郎教授も、都内などで感染者は多いが見つかってない可能性があるとツイッターで指摘した。自らのサイト「楽園のこちら側」では、調査で示された陽性割合を元に、「東京都の感染者は良いシナリオで23万人以上、悪いシナリオで430万人以上ということになる」と推計を出している。
ただ、重症者や死亡者が少ないことも同時に挙げた。その理由としては、日本人の体質やBCG予防接種の普及といった内因的要素な要素があるのではないかと推測した。
もっとも、同病院で小規模なクラスターが発生したため、陽性者の割合が高くなった可能性もあるとはしている。
感染者が多い場合は、死亡率が低くなる傾向も
潜在的に感染者が多い可能性がある状況で、都内では、なぜ検査数が減少しているのだろうか。
都の新型コロナウイルス感染症対策調整担当課長は4月23日、J-CASTニュースの取材に対し、こう説明した。
「この1週間ほどは、医療機関が保険適用で行った検査数は含んでいません。1週間分は、24日に検査数に積み増すことになります。検査数がかなり落ちているのはそのためです」
この1週間分は、都の健康安全研究センターで行った検査数を反映しているというが、それが減少した理由についてはこう言う。
「当初より検査は全体的に増えてきていますが、外出自粛で感染機会が減っていることや医師の判断で検査が少なくなったことなどが考えられると思います」
陽性率が上がったことについては、医師の見る目が確かになったことなどを挙げたが、潜在的な感染者が増えた可能性もあることは認めた。ただ、仮に感染者数が実際はもっと多いとすれば、感染による死亡率が下がる結果につながる可能性もあるという。ともかく、重症化の恐れがある感染者を見つけて、病院で早めの対応をすることが大事だと担当課長は言っている。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)