「どうしていいか分からずパニックになった」
続いてまたもトイレにまつわるエピソードを紹介したい。1990年代の初めの頃の話だ。その日、ファームで試合が行われた。この話の主人公である選手は、1回の守備が終わると同時に球場脇に設置されていた移動式のトイレに駆け込んだ。この選手の打順は3番で、1回の攻撃で必ず打席が回ってくる。1回裏の攻撃が始まり、1番バッターが打ち終わっても3番打者が戻ってこない。慌てた通訳はトイレに駆け寄り、「早くしろ。次がお前の打席だ」とノックしながら叫んだという。
扉の向こうからは「あと少し待ってくれ」としか返答がなく、なぜかドアノブがガタガタきしんでいたという。5分近くトイレにこもった後、トイレから出てきたその選手はパンツを上げながら打席に向かい、ギリギリ「セーフ」で間に合ったという。その打席でヒットを打ったか凡退したかは定かではないが、ベンチに戻ってきた選手に通訳がなぜそんなに用をたすのに時間がかかったのか問い詰めたところ、選手は次のように返答したという。
「やり方が分からなかったんだ...。どうやって座ったらいいのか分からなかった。日本式の便器を見たのは初めてだったから、どうしていいか分からずパニックになった」
球場脇に設置されていたトイレは和式のもので、その選手は迷った末に中腰の姿勢をとり、ドアノブを握りしめながら用をたしたという。元通訳は「和式トイレが初めてだったらしく、反対を向いて用をたしたようです。しゃがむことが出来ず、ドアノブをつかむことで中腰の姿勢をなんとか保ったと言ってました」と説明した。