現時点でも新型コロナウイルスの感染事例の発生を認めていない北朝鮮で、国内ではすでに感染事例の発生を認め、住民に注意喚起しているとの見方が出てきた。米政府系のラジオ局「自由アジア放送」(RFA)が2020年4月17日伝えた。
対外的には自国の対応をアピールする一方で、脆弱な医療体制を背景に、国内向けには実情をある程度明らかにしながら対策を強化する狙いもありそうだ。
国営メディアは順調な経過観察をアピール
対外的には、北朝鮮は現時点でも「感染者ゼロ」の立場だ。感染症対策のトップにあたる朴名帥(パク・ミョンス)国家衛生検閲院院長は4月1日に平壌で共同通信やAFP通信など外国メディアのインタビューに応じ、
「現時点では我が国には一人たりとも感染者は発生していない」
と主張している。それから半月以上経過した4月18日付けの朝鮮中央通信の記事では、
「防疫活動が全党的、全国家的、全社会的にさらに強化されている」
などと報じており、さらに対応を強化していることをアピール。発熱などの症状がある人は隔離の対象になっているとみられ、
「平安南道、黄海北道、羅先市で全ての医学的監視対象者が解除された」
として、経過観察が順調に進んでいることを強調した。感染者についての言及はなかった。
「党の検疫ガイドラインが適切に実行されておらず、人民経済に深刻な損害」
一方で、RFAは北朝鮮国内の2つの情報源の話として、感染者が出たことに関する住民説明会が3月末に行われたことを伝えている。ひとつめの情報源が、北東部の両江道(リャンガンド)の住民だ。この住民が4月16日にRFAに明かしたところによると、説明会は
「最高指導者の政策を貫徹するために新型コロナウイルス防疫事業を団結して行おう」
と題して行われ、登壇者は国内に感染者が確認されたことを明らかにした上で、
「党の検疫ガイドラインが適切に実行されておらず、人民経済に深刻な損害を与えた」
として
「さらなる損害を阻止するために、一丸となって新型コロナウイルスとの戦争に勝利しよう」
などと呼びかけたという。これを聞いた住民の間には、
「政府はこれまで、党の徹底的な緊急検疫対策で一人も感染者はいないと言っていたのに、なぜこんなことが起こるのか」
といった困惑が広がったという。この説明会での説明によると、感染者が確認されたのは平壌、南西部の黄海南道(ファンヘナムド)、北部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)の3地域。
RFAのもうひとつの情報源は平壌の住民で、平壌の説明会も同様の内容だったという。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)