提案際立つ国民民主、次の一手は「ロックダウン法案」 与党にも「パクって結構」 玉木雄一郎代表インタビュー

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   人と接触する機会を「最低7割、極力8割」減少させることを求めた緊急事態の発出から間もなく2週間。外出は大幅に減少しているものの、8割には相当な隔たりがあるのも事実だ。

   緊急事態宣言の根拠になっている新型コロナウイルスの感染拡大に備える改正特別措置法(新型コロナ特措法)では、外出自粛は「要請」に過ぎず、休業補償も不十分で、実効性に乏しいとの指摘も根強い。

   こういった背景から、「100%の休業補償」を前提に、外出制限違反に罰則をつけたり、強制的に施設の利用を制限できるようにしたりして実効性を持たせる、いわゆる「ロックダウン法案」の検討を進めているのが国民民主党だ。こういった強制力を伴う対応は、私権の制限をともなうため、慎重論も根強い。玉木雄一郎代表に、法案の狙いを聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 国民民主党の玉木雄一郎代表
    国民民主党の玉木雄一郎代表
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今の特措法には「北風と太陽」がない

   ―― 玉木代表は2020年4月8日の定例会見で、いわゆる「ロックダウン」法案の検討を党内で始めたことを明らかにしました。どういった内容ですか。

玉木: 現在の措置法は基本的には要請ベースになっています。私権の制限については慎重に制約的に行わなければなりませんが、このような世界的なパンデミックで日本全国にも緊急事態宣言を出すようになったときに、要請ベースで感染拡大防止が本当にできるのかということが問われる状況になっています。やりたいことの趣旨はたったひとつ、緊急事態措置に実効性を持たせたい。つまり、(竹製の)竹光のような切れない刀ではだめで、感染拡大を抑えるには8割の行動自粛が不可欠だとされている以上は、それを実行しない限り多くの人に感染が拡がり、経済的な影響も長引きます。国民、国益のために実効性を担保しなければいけない局面ですが、簡単に言うと、今の特措法にはそれを実現するための「北風と太陽」がありません。「営業をやめてください」とお願いしても、皆生きていかなければなりません。ですから、要請ベースなら余裕のある人はやめるかもしれませんが、そうでない人は営業せざるを得ません。国が「北風」で「やめてください」と言うのであれば、しっかりとした経済的な補償、休業補償に万全を期すという「太陽」がセットでなければなりません。

   ―― 事業者以外にも外出や出勤の制限で、個人も賃金が減ったりしています。

玉木: こういった制限は所得に関係なくすべての人にお願いをするわけなので、「感染拡大防止協力金」として、例えば一律10万円を給付する。所得制限の概念は入れるべきではありません。その点で今回の(1人一律10万円給付を決めた)総理の決断は、私は良かったと思うし、我々が従来から言ってきたことです。今の特措法には、経済活動を止めたからといってなにかお金を払うというのは想定されていません。繰り返しになりますが、個人・企業に対して経済的な補償を万全にするというのが「太陽」。もう一つはあえて「北風」と言いますが、今の外出にしても企業の経済活動の自粛にしても基本的には要請ベースです。法律上は「要請」「指示」「命令」の3つの手段がありますが、特措法でできるのは、外出については最も緩やかな「要請」のみです。施設の使用については「指示」までできます。

   ―― 緊急事態宣言発出前の3月22日には、西村康稔経済再生相や大野元裕知事の自粛要請にもかかわらず、さいたまスーパーアリーナ(さいたま市)で格闘技イベント「K-1WORLDGP」が開催されました。

玉木: 個人の外出と施設の使用制限についての規定はあるものの、業務については特段制約する規定がありません。例えば、さいたまスーパーアリーナを閉じるか閉じないかの規定はありますが、事業をやってよいか、業務の停止に関する規定はない。これをまず新設、追加する必要があります。そのうえで、業務について「要請」「指示」「命令」を追加し、「支持」までが規定されている施設使用については「命令」を加えます。さらに、命令に反した場合は罰則をしっかり用意するということが大事です。ただ、「要請→指示→命令」と規制を強くした分だけ、経済的補償も強くしなければいけないと思います。

特措法の規制強めてフリーライダーを防止したい

   ―― 個人の外出については、現行の特措法では「要請」までです。

玉木: せめて、より強力な「指示」まで出せるようにしなければならないし、もし業務と同様に考えるのであれば「命令」、そして反した場合の罰則まで検討することになりますが、個人についてここまでやるかどうかは、より慎重な検討が必要だと思います。もうひとつ大事な視点として、フリーライダー(ただ乗りする人)を防止したいんです。みんなに自粛要請が出てストレスが溜まる中、多くの人は、本当は稼ぎたいのにその機会を放棄して事業を停止している。今でもオリエンタルランドは開けばみんな来ますよ。でも「それはまずい」ということで休業に協力しているわけです。一方で、「自粛だから。強制でも義務でもないからうちは営業しますよ」と自粛しなかった人は経済的なメリットを受けることが可能だし、そのことによって感染拡大が広がり、休んでいる人も含めて多大なる経済的・社会的悪影響を及ぼしてしまう。「ルールを破った者勝ち」みたいになってしまいます。その意味でも、もう少し特措法の規制を強め、強めた分だけ経済補償に万全を期すという法体系が必要です。それを早急に、来週にでも(編注: インタビューは4月17日(金)午前中に行われた)法案として仕上げていきたい。与党も含め、各政党に是非やりませんかと提案をしていきたいと思います。

   ―― 仮に法案成立後に、さいたまスーパーアリーナのK-1のような事態が起こった場合は、具体的にはどうなるのでしょうか。罰金や事業者の公表などでしょうか。

玉木: 個人の公表には否定的ですが、事業者については、現行の特措法でも緩やかな「北風」の措置は入っています。規制をより強くした場合は、反したところは当然公表するということになると思いますね。

   ―― 個人への罰則は、なかなか抑止力との関係で難しいところですね。

玉木: 例えば党内では、いちばん厳しいフルスペックの欧米型の外出規制、外出禁止命令まで出せるようにしたらどうか、かつ罰則としては刑事罰ではなく行政罰もあり得る、といった体系を含めて検討してもらっています。歩きたばこ禁止や駐車禁止に反したら過料が課せられるのと近い考え方です。やはり企業や施設、業務に比べれば、個人に対する規制により慎重な意見が多いのは事実です。

   ―― 「行政罰」は、どの程度のものをイメージしていますか。千代田区では、生活環境条例で「路上禁煙地区での喫煙に2000円の過料処分」となっていますが、シンガポールでは300シンガポールドル(約2万2000円)と高額で、幅があります。このあたりのさじ加減は難しそうですね。

玉木: 難しいですね。執行も難しそうです。歩いている人を手当たり次第に捕まえるといっても、誰が取り締まるのか。そうすると、警察も大量に動員しなければならないので、難しくなります。実効性も踏まえて検討してもらっていますが、企業や施設に比べれば個人に対してはより慎重に、という声が多いです。

共産党は「必要だとは考えていない。まったく現実的ではない」と言うが...

   ―― 来週には成案を得たいとのことですが、どういった枠組みでの提出を考えていますか。国民民主単独、野党会派、野党全体など、色々な考え方があると思います。ただ、共産党の志位和夫委員長は4月9日の記者会見で、補償がされていないことが問題だとした上で、「罰則つきのものが必要だとは考えていない。また、それはまったく現実的ではない」と話しています。

玉木: そうした懸念があることも、よく承知しています。実効性を担保するためには「北風と太陽」のようなアプローチがあり、共産党さんはどちらかというと、「経済補償を万全にするので外出をやめてください」という、どちらかと言えば「太陽政策」。「北風政策」は従わなければ何らかのペナルティがあるというものですが、私は両方必要だと思います。共産党さんがそうした行動制限などに慎重になるのはよく分かりますが、今大事なことは感染拡大防止にいかに実効性を持たせるということです。おそらく新型コロナが終息したとしても、新たな、より強力な感染症が出てくる可能性は否定できないと思います。今回のことを参考に、人権には十分に配慮しながら、「北風と太陽」政策をメニューとしては持っておくべきだと考えます。残念ながら、与党や他の野党から出て来ませんので、われわれとして一石を投じるという意味でも、是非これは提案したい。特措法は2012年に民主党政権が新型インフルエンザのパンデミックを受けて作った法律です。さらに感染症が拡大して今回の新型コロナが出てきた以上、立法府にいる責任として、法律に不備があるのならばレビューしたうえで見直すべきところは見直していく、というのが私の考えです。

   ―― 今回の、いわゆる「ロックダウン法案」は、経済的補償についても盛り込んだ特措法の改正案という形で検討を進めているところですが、今後、どういった形で他党に理解を求めていきますか。

玉木: できるだけ与野党に幅広い賛同を得て出したいと思いますし、まずはわが会派の中で、理解は大体得られてきたと私は思っています。経済的補償の中で特に急ぐ必要があると思うのが、家賃の支払い猶予です。現在、多くの人が家賃を払えなくなっています。緊急事態宣言が全国に広がったため、日本全国の夜の街が営業できなくなっています。しかし、固定費はかかり続けるので、まず家賃の支払いを猶予することが必要です。

   ―― 赤羽一嘉国土交通相はビルの所有者に対し、テナントから家賃を徴収することを猶予するように要請しています。

玉木: 大家さんも大変なので、簡単に聞かないと思います。だから支払い猶予の制度を作る必要がある。具体的には、政府系金融機関が大家さんに代わりに払ってあげて、大家さんが持っている賃料請求権を政府系機関が持つ。1年くらい待って、情勢が回復してきたときに家賃請求をする、という流れです。家賃支払いの猶予を可能とする法案については、日本維新の会の皆さんや大阪府の吉村洋文知事も言及しています。もし必要ならば、そこだけ外出しして、与党とも協力して早期に成立させたいと思います。

まずは「家賃支払いモラトリアム法案」4月中の成立目指す

   ―― いわゆる「ロックダウン法案」を含む一連の特措法改正案から家賃のところだけ「家賃支払いモラトリアム法案」として切り出して、成立に向けた優先順位を高めていくわけですね。

玉木: そうですね。もし各党の合意が取れるのであればそこは急いで...。ロックダウンに関しては各党それぞれ考えがあると思いますが、家賃の支払い猶予についてはおそらく与野党幅広い合意が得られると思います。そこは速やかに、今月中にでも成立させたいです。

   ―― 日本維新の会の足立康史衆院議員とは、ツイッターで殺伐としたやり取りがありました。

玉木: いえいえ、私としては殺伐としたという気はありません。常に突っかかって来るので「まあまあ、どうどう」と言いながら...。法案は、うちと維新だけでは通らないわけだから、与党も含め幅広く根回しをしないといけません。あまり表のところで喧嘩をしても法律は通りません。

   ―― 自民党は野党の政策を「パクる」ことがあります。例えば17年9月の民進党代表選では前原誠司衆院議員が 「『社会保障・税一体改革』の反省の上に立ち、教育や住宅等をプラスした『尊厳ある生活保障』の旗のもと、国民の受益を明確にする」という公約を掲げましたが、これが自民党の「消費増税分は社会保障に回す」という政策の「ネタ元」だという指摘は根強いところです。自民党の岸田文雄政調会長が4月16日になって「自民党としても当初から訴えてきた10万円一律給付」とツイートしたのには驚きました。

玉木: 今回の法案は、私はパクってもらって結構です。今は野党として政権を厳しく批判することも仕事ですが、これだけの国難ですからいいアイデアはどこから出てきてもいいじゃないですか。与党が作れないならば、われわれ野党が作ってパクってもらって結構です。どんどん私も提案していますから。

自民がパクって法案出してきたら「賛成しますよ」

   ―― 国民民主党としては、自分が提出した法案に他党が乗って成立するのが理想なのだとは思いますが、仮に与党がそれをパクって似たような法案を出してきたら、歩み寄りますか。

玉木: 賛成しますよ。緊急事態宣言を盛り込んだ特措法が改正される際に安倍晋三首相と党首会談を行いましたが、あれから1か月が経って全国に緊急事態宣言を出すような状況になりました。もう1回総理に党首会談してもらいたいんですよ。全面的に協力することは協力し、アイデアも知恵もいっぱい集まっています。いわゆる「ロックダウン法案」も、その一つの表れで、そこは与野党が協力してやればいい。是非自民党総裁として、もう一度党首会談をしていただきたい。そこでまた具体的な提案をさせてもらいたいと思います。

   ―― 憲法の緊急事態条項についてはいかがですか。自民党からは、これを機に議論を深めるべきだという主張も出て、それに対して「火事場泥棒」だという批判が出ています。

玉木: 憲法の議論はしたらいいとは思いますが、今からやっても新型コロナには間に合いません。今は、あらゆる政策リソースを新型コロナ対策に特化すべきというのが、まず一つ。二つ目として、特措法の足らざるところも明確になってきているわけだから、いきなり憲法に行く前に、政府与党側から私が提案している「ロックダウン法案」のような緊急事態法制に関する議論が出てこないのが不思議でなりません。私は改正のための改正議論のような感じがしていて、もっと国民に役立つ議論をしたらいいと思います。つまり、「法律でどこまでできて、ここからは憲法を変えないとできません」という境目の議論もなく、いきなり憲法論にいくのも、非常に地に足がついていない気がしています。

   ―― ただ、産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が4月11日と12日に行った世論調査では、緊急事態条項を設けることに65.8%が賛成と回答しています。世論は焦っているのでしょうか。

玉木: それは、今の要請ベースの特措法が不十分だと多くの人が思っているわけです。だからいきなり憲法に飛ぶのではなくて、特措法の改正がなぜ政府与党側から出てこないんですか、ということですよ。われわれは問題点を感じるから、具体的に特措法の改正をして、いわゆる「ロックダウン法案」を提案しているわけです。立法府としての責任をまず与党議員、政府は果たすべきで、憲法の議論はその後じゃないでしょうか。観念論で改憲のための改憲議論から早く卒業をして、もっと国民・国益にとって役に立つ現実的な議論を落ち着いてやりませんか。もう法案は、かなりできていますから、是非審議に応じていただきたい。

3月9日には「1人10万円程度の簡素な給付措置」主張していた

   ―― 現金給付が、「所得制限つきの1世帯あたり30万円」から一転して「所得制限なしの1人10万円」でまとまりました。玉木代表が3月10日の記者会見で主張したことが、1か月ちょっとかかって、やっとここまで来ました。これをどのように評価しますか。

玉木: そうですね。私が先駆けて言っていたことが実現したことは、紆余曲折ありましたが率直に評価したいと思います。一律給付にこだわったのは、条件を付ければ付けるほど現場の交付事務が非常に煩雑になり、スピード感が失われてしまうからです。今回一番必要なのはスピード感だと。最初に「1人10万円程度の簡素な給付措置」が必要だとツイッターに書いたのが3月9日で、当時は2週間以内、つまり年度末の支払いに困る人が出てくるので、3月中にまず配るべきだということを言っていたわけです。スピード感を重視するためには多少の問題点を置いておいても、困る人に届けることが必要なので、「10万円一律」ということを言っていました。加えて、すべての人に経済活動を自粛していただいて、ある種経済をマヒさせることが最大の感染症対策になるので、所得に関係なくすべての人に感染拡大防止に協力いただく「感染拡大防止協力金」としての性格もあります。従って、所得関係なく一律に配ることにこだわってきたので、それが実現したのはよかったと思います。これからはスピード感ですよ。ただでさえ遅れてしまったので、今のままいくと手元に届くまでに本当に時間がかかってしまう。これをいかに速くするのか。今度は具体的な配り方についてもいくつかの案を持っているので、提案していきたいと思います。

   ―― スピーディーに配るには、どんな方法がありますか。

玉木: 今、党内でも検討していますが、普段からお金の取り扱いに慣れている金融機関の協力を得るというのが一つ方法として考えられます。保険証を活用する方法です。日本は皆保険ですから、保険証で本人確認する。ほとんどの皆さん銀行口座を持っておられますからそこに振り込み、現金として欲しい人は引き出す、というのが速いと思います。大事なのは補正予算が成立する前から、急ぐ人のために申請を認めることです。方向性としてはある程度成立が見込まれるわけですから、それは野党も協力してやればいい。

   ―― マイナンバーの活用についてはいかがですか。

玉木: 余裕のある方はマイナンバーと紐づけてやるというのもひとつだと思います。窓口で手続きするのはひとつの方法で、もうひとつはウェブサイトを作る方法です。そこにマイナンバーの情報を入力して、よくあるようにメールで本人認証して、銀行口座を入力して数日後には振り込まれるようにする。こういった、人と接触せずに済む方法も考えたいいと思います。

消費減税が持つ「2つ」の効果

   ―― この現金給付は、組み替えが進んでいる補正予算で対応することになりますが、第2次補正予算を組んで追加対策が必要になりそうです。給付には様々な案が出ていますが、やはり商品券は効果が低いと考えますか。

玉木: 二つに分けて考えなくてはいけません。感染拡大防止の時期は、消費活動を活性化させるのはだめだと思います。国から給付するお金は、生活、事業継続を支えるという目的に特化したほうがいい。その意味では先ほど言った10万円は、おそそ3か月分と計算していたので、もし7月以降まで長引くようであればやはり第2次補正を組んで7~9月の手当てもすべきです。企業への持続化給付金についても額が本当に100~200万で済むのかという議論があるので、増額を考えなければなりません。
一方で、ある程度感染拡大の抑制段階になってきたら消費を盛り上げようというときに、商品券の話が出てくる。これは非効率で面倒なので、すべての財・サービスを等しく刺激するのにいいのは、消費税減税ですよ。もちろん色々な意見がありますが、短期的に消費税を5%以下にする...、税負担を最もシンプルに軽くするのはゼロにするのがいい。事業者に聞いたら、「中途半端に下げるくらいなら時限的にゼロの方がいい。そうしたら消費がV字回復する」と(いう声が上がった)。それはその通りなので、私はむしろやった方がいいと思います。20兆円ぐらいの財源が一時期必要ですが、それは国債を発行して短期に調達すればいい。とにかく今は、事業をしている方をつぶさない、ということが大事。いったん辞めてしまうと二度と復活しないので、そうすると税収の源が根こそぎなくなってしまいます。事業継続が可能な資金をしっかり届けるということが第一。それが復活してきたときに、ややこしい商品券とかではなくて、消費税を大胆に減税、あるいは一時停止するということが一番効果的なのではないでしょうか。

   ―― 国民民主党の経済対策では、(1)10兆円の家計減税(消費喚起)(2)10兆円の給付措置(生活保障)(3)損失に対する10兆円の減収補償(事業継続支援)の3つを掲げています。(2)(3)は緊急度が高く、(1)は少しフェーズが後ろにずれるイメージですね。

玉木: そうですね。事態が長期化する可能性がありますから。

   ―― 立憲民主党の枝野幸男代表は4月3日の定例会見で、消費減税について 「消費を拡大させるという一般的な経済対策について、今論じている時期ではない」 と述べています。今の優先順位の議論からすると、枝野氏と認識はずれていないとも解釈できますね。

玉木: ずれていませんね。消費減税がいいと思っているのは、「消費減税を将来やる」と今宣言すると、猛烈な買い控えが起こることです。今は経済活動が収縮する時期なので、買い控えていい。その代わり、将来(消費税が)安くなったときに買うということで、ある程度感染拡大が抑えられた段階で(消費が)ブーストします。このように、消費税減税というのは、短期における消費の抑制と、回復した後に一気に回復させるという両方の意味があるので、コロナ対策としては非常に効果的なのではないかと思っています。

   ―― そうなると、実際に下げる時期は微妙なところですね。

玉木: 先になりますね。

素直に「おかしい」という声を上げる大切さ

   ―― ところで、緊急事態宣言発令直後の4月7日の首相会見では、安倍氏は「我々も、ネットから出てくる情報をしっかりとつかみながら対応していきたい」と話していました。玉木代表としては、「ネットの声」を、どのように政策に生かしていますか。

玉木: ネットの声の影響力は増してきていると思いますね。色々な誹謗(ひぼう)中傷のようなこともありますが、すごく普通の声も届きます。特に今回は、我が党は妊婦さんの問題を取り上げました。いわゆる基礎疾患を持つ人や高齢者など、特にケアが必要な人については当初から指摘されてきましたが、妊婦の看護師さんから「3時間かけて決死の覚悟で満員電車に乗って通勤している。やっぱりみんな忙しいし、自分から休むとは言い出せない。お腹の子どものことを心配したり、感染のリスクを背負いながら通勤しています」といった切実な声がネットを通じて寄せられ、対策の必要性を感じています。

   ―― ユーチューブの「たまきチャンネル」では、一見複雑な政策の話を、かみ砕いて説明しています。

玉木: あれを見て政治に関心を持ったという人が多いです。実は、10代、20代に多く見てもらっています。もちろん世代が上の人も見ていますが、そういう若い人たちに政治を身近に感じてもらえるきっかけになっているという意味では、動画配信はこれからも続けていこうと思います。ツイッターでも2分の動画配信を始めましたが、30万回近く見られるものもあります。そういうこともあって、総理も判断を変えたんじゃないかと思っています。やっぱりネットの声は大きいですよ。

   ―― 10万円の件が象徴的ですが、指摘し続ければ事態は変わることもある、ということでしょうか。

玉木: 東日本大震災でもそうでしたが、普段政治に関心がない人でも、「これが政治なんだ」と感じる場面が多いと思うんですよ。例えばマスクが家に配られてくる、というのは政治が決めないと決まらないことです。そのことが良いか悪いかの判断を、身近にできるようになってきています。政治が「分かる」「分からない」ではなくて、ある事柄が起こったときに、素直に「おかしい」という声を発することによって、世の中が正しい方向に変わっていく確率が上がっている、と思っていただいた方がいいと思いますね。

玉木雄一郎さん プロフィール
衆院議員、国民民主党代表。1969年香川県生まれ。東大法学部卒。93年旧大蔵省入省。2009年の衆院選で香川2区から初当選し、現在4期目。旧民進党幹事長代理、国民民主党共同代表を経て18年9月から現職。


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