新型コロナウイルス蔓延の温床と名指しされているのが、全国の「夜の街」である。その性質上濃厚接触が避けられず、危機感が広がると客足が激減した。
度重なる自粛要請で既に働く人の収入も減り、働き手は生活に困窮しているという。一方で職業柄、社会からの偏見にもさらされている。風俗ライターへの取材を通じて、新型コロナで突然の危機に見舞われた業界の本音を探った。
「見放されている」不安
取材に応じたのは、風俗ライターのキッコー万太郎さん。キャバクラ・ガールズバー・セクキャバ・ヘルス等さまざまな業種がある中で、万太郎さんはデリヘル・ヘルス・ソープなどの実情を語った。小池百合子都知事が「クラスターが発生している」と指摘したナイトクラブなどよりも、さらにディープな身体の接触を伴うサービスだ。
これらの店では、既に自粛ムードが広がる前から客足が落ち込み始めていた。2月下旬に鈴木直道知事が緊急事態宣言を出した北海道の札幌に始まり、関東・関西・名古屋・福岡といった大都市圏では3月下旬には売り上げが激減している。飛び込みの客がほぼ皆無になり、女性従業員のリピーターだけで収入を得ている状況とのことである。
実は都知事が当初に休業要請を行った業種の中にはソープランドやストリップ劇場が含まれていたが、固定の店舗を持たないデリヘルは含まれていなかった。4月13日に「性風俗店」が対象に追加されたために、より多くの店が休業を選択した。休業だけにとどまらず、既に吉原では廃業を選んだ店も出ており、緊急事態が続けば地方にも波及し、さらに廃業が増えて窮状は悪化するだろうという。休業に対する東京都からの補償も具体化しているが、「家賃にも足りない」程度だ。
3月上旬から、自治体により不要不急の外出を控える要請が出されると、業界は真綿で首を絞められるようにジリ貧になってきた。補償なき自粛が続いていることには「社会や行政に見放されている、殺されるような感覚を業界は持っています」という。「自粛ムードから『営業するな』と言われることも多いです。ただ働く人たちもコロナを広めたいとも、もらいたいとも思っていないし、消毒液をかき集めたりしている。不安なのは皆さんと同じです」と本音を記者に伝えた。
「趣味で働いている子なんていない」
夜の接待を伴う飲食店で新型コロナ感染例が増えていると報じられ、ネット上には店舗の実名を出してまで噂が飛び交っているが、キッコー万太郎さんが知る限りでは、性風俗店での具体的な感染例は聞かないという。ただそれでも感染リスクが高いことには変わりはない。
そんな危険を冒して働いている女性たちだが、客が減り店が閉まれば収入は減る。自宅待機を強いられ、生活の見通しが立たず自殺未遂に至った子もいたと万太郎さんは聞く。それでも風俗業への偏見は強く、休業補償などにも「自己責任」という世間からの声もあった。これには「いくら高額の報酬でも、お客さんの前では『ちょっと興味があって』と言っていても、好きで見ず知らずの男性と密着したい女の子なんていません。趣味で働いている子なんていない」と万太郎さんは話す。
「オンラインでのサービスが開拓されるかも」
また、風俗業が最後の「セーフティーネット」ではないかとも指摘する。あくまで個人の意見として「お金を稼ぎたい若い女の子だけでなく、風俗があるから、犯罪に走らずにいられる男性もいると思います。それだけではない、性欲目的ではなく、精神的な癒しを求めて来るお客さんもいる」(万太郎さん)と指摘する。
そして働く女性の側も、「地下に流れるというか、パパ活などよりアンダーなビジネスで稼がざるを得なくなります」と推測した。その場合、客による性犯罪や、反社会的勢力が客を装って近づき、非合法ビジネスに巻き込まれるおそれもあるという。
新型コロナの流行に収束の見通しは立っていない。現場は「補償でお金がもらえるのはありがたいが、目先のお金だけでは見通しが立たない。とにかく元通りに戻ってお金を稼ぎたい」が女性たちの本音だそうだが、長期化すれば「オンラインでのサービスが開拓されるかもしれない。でもテレクラの復活みたいで、それで(お客さんにとって)人との直接の交流で得られる精神的なぬくもりが得られるかどうか...」(万太郎さん)という現状だ。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)