新型コロナウイルスの感染拡大を受けて湿りがちな東京株式市場で連日のように、上場来高値を更新した銘柄がある。コロナ克服の医薬品を期待される中外製薬や富士フイルムホールディングス(HD)、在宅の食品需要が見込まれる伊藤園だ。日経平均株価は3月中旬のパニック売りの時期を脱して反転しつつあるが、そうした中でも成長期待株が物色されていることを示している。
もともと中外製薬は足元の業績が堅調で、2019年12月期連結決算で純利益が前期比70.4%増の1575億円と大幅増益を果たした。血友病治療薬「ヘムライブラ」などが収益増の要因となっている。この決算とさらに好調な20年12月期の業績見通しを受けて20年2月には、時価総額が1年1カ月ぶりに武田薬品工業を上回り、国内製薬トップとなった。武田は2019年1月にアイルランドの製薬大手シャイアーを6兆円超で買収したことで時価総額首位に立ったが、その買収による「のれん」の減損リスクが意識されている。
新型コロナと治験
そんな中外製薬にさらに期待を抱かせているのは、中外製薬が開発した関節リウマチ治療薬「アクテムラ」だ。20年3月に中外製薬の親会社であるスイス・ロシュが米国などでアクテムラの新型コロナウイルスに対する有用性を確認する臨床試験(治験)を始めたと発表。株価は上昇気流に乗り、4月6、7、8日に連日、上場来高値を更新した。4月8日には中外製薬が国内でも同様の治験を始めると発表したことなどから、4月13日には一時、1万3820円と、さらに高値を更新した。
新型コロナウイルスに対しては富士フイルムHDの「アビガン」も期待されている。子会社の富士フイルム富山化学が開発した抗インフルエンザ薬で、コロナの肺炎患者に投与することになったと報じられた2月、富士フイルムHDの株価は上場来高値をつけた。ただ、胎児に奇形が生じる可能性があるとされているほか、すでに国家備蓄薬として(新型インフルエンザ対策使用換算で)200万人分を約68億円で納入済みで、「業績への影響は限られる」との見方から伸び悩んだ。
「巣ごもり消費」の恩恵
それが、4月に入ると再び勢いがつく。政府の経済対策で「アビガン増産支援」が盛り込まれ、安倍晋三首相が会見で「アビガン」を連呼するなどして6日には一時、6420円まで上昇し再び上場来高値を更新する場面もあった。ただ、メリルリンチ日本証券が8日付で富士フイルムHDの投資判断を3段階の最上位から最下位に格下げし、目標株価を6000円から5100円に引き下げたことなどで勢いがそがれて急反落。メリルは「アビガンの有効成分を保護する物質特許が切れているので業績への寄与は一過性」と指摘した。期待と失望が交互に現れ、ジェットコースターのような荒い値動きになっている。
他方、伊藤園は3月31日に上場来高値を更新し、4月7、8日にさらに高値を更新し、一時6060円をつけた。3月2日発表の2019年5月~20年1月期連結決算の純利益はペットボトル飲料の安売りが減ったことなどにより、前年同期比10.2%増の112億円と好調だったことが下地にある。2月の月次売上高も日本茶・健康茶飲料が前年同月比10%増だったことで「巣ごもり消費」の恩恵を受けるとの期待が膨らんだ。