電力の完全自由化に向けて、政府が主導してきた「電力システム改革」の総仕上げとなる「発送電分離」がスタートした。政府には事業者間の競争を活発化させ、価格値下げや新しいサービスを促す狙いがあるが、新電力側には「不十分だ」との不満が根強い。
2020年4月1日に始まった「分離」は、東京電力や関西電力など大手電力会社に対して送配電部門の分社化を義務付けるもので、電力小売りに新規参入した「新電力」である東京ガスや石油元売り会社などが自前で構築できない送配電網について、中立性を高める。
大手の送配電部門を別会社化
国内の電力供給は終戦後の改革で、各地域にある大手電力会社に「発電」「送配電」「小売り」の3段階をまとめて担わせる地域独占のスタイルを導入した。電力需要が右肩上がりだった成長期には発電所の新設などで有効に機能したが、1990年代になると諸外国に比べて高い電気料金に産業界から批判が高まり、政府は自由化に舵を切った。「発電」と「小売り」が先に自由化され、2016年4月から一般家庭は電力会社を選べるようになったのも、その一環だ。
残っていた「送配電」は発電所でつくった電気を工場や家庭に届ける機能で、鉄塔や電柱などの整備や管理に巨額の費用が必要だ。従来、新電力は大手電力会社の送電線を利用させてもらって電気を販売していたが、新電力側からは、そもそも託送料(送電網利用料)が高いとの不満に加え、新電力が大手の送配電部門に伝えた顧客情報を、大手の小売り部門の営業活動で利用されかねない、との疑念が上がっていた。そこで今回、4月1日に実施された発送電分離では、大手の送配電部門を別会社化して、情報共有や人事などを厳しく規制している。
例えば関西電力の場合、送配電部門を切り離して、株式を100%保有する別会社の「関西電力送配電」を設立した。北海道、東北、北陸、中国、四国、九州の各電力も同様の方式を取った。中部電力は持ち株会社化して、送配電子会社の「中部電力パワーグリッド」を小売りの子会社などと合わせて傘下に置いた。東京電力ホールディングスは先行して分社化しており、沖縄電力は本州から距離が遠く、規模も小さいため対象外になっている。