新型コロナウイルスの感染拡大は、もともと消費税率アップや暖冬などで苦境にあった大手アパレル各社に、さらなる打撃を与えている。2020年3月の既存店売上高はレナウンが前年同月比42.5%減、ワールドが41.9%減と「需要蒸発」とも言える事態。百貨店を主な販売ルートとする各社は長年、株式市場などからネット通販の強化や事業の多角化を求められてきたが、十分には進んでいないこともダメージを大きくしているようだ。
ローラアシュレイ破綻で出鼻をくじく
「当月(3月)は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、商業施設での時短営業に加え、月末には都市部の百貨店やファッションビルでの営業自粛も増加し、集客面を中心として大きな打撃になりました」
ワールドは4月3日に発表した3月の月次売上概況について、率直にこうコメントした。3月期決算のワールドにとって3月は年度の最終月。その既存店売上高の前年同月比41.9%減という数字は、12カ月を振り返ってみて異次元だ。3月以外で最も低い、消費増税の影響を受けた2019年10月でも12.7%減にとどまる。4月以降も主要販路が百貨店であるだけに販売の低調さが続く見込みで、まさに出口が見えない状況と言える。
もっとも、ワールドは大手4社の中では足元の業績は好調だった。2005年にMBO(経営陣による買収)で非上場化し、2018年に再上場するまでの間、在庫管理の効率化などを進めて利益を出しやすい体質にした効果が出たとされている。2020年3月期連結決算の最終利益の見通しは前期比33.1%増の122億円。3月の惨状を受けてどう着地するか予断は許さないが、多少下振れたとしても赤字転落とまでは見られていない。ただ、コロナは思わぬ余波をももたらした。英生活雑貨ブランド「ローラアシュレイ」の国内店舗を8月から運営する予定だったが、そのローラアシュレイが3月、新型コロナの影響で経営破綻したと伝えられた。収益源を多角化すると評価されていただけに、出端をくじかれた格好だ。なお一方で、日本での展開は予定通りとも報じられている。
レナウンは親会社との「連携不足」
ワールド以外の3社はコロナの影響が出る前から、最終赤字かその見込みという厳しい状況だった。レナウンの2019年12月期連結決算(決算期移行のため10カ月の変則決算)は67億円の最終赤字。単純比較できないが赤字は2期連続だ。レナウンは2010年に中国繊維大手の山東如意科技集団の傘下に入ったが、10年を経てもなおうまく連携できていない。今回の赤字の要因として、山東如意グループの香港企業に対する売掛金回収が滞り、貸倒引当金53億円を計上したことがある。暖冬で単価の高いコートなどが低調だったことも影響した。決算短信には投資家に注意を促す「継続企業の前提に関する注記」を記載した。
山東如意との連携不足はトップ人事にも影響した。3月26日の定時株主総会で5割超出資する山東如意によって神保佳幸社長と北畑稔会長の取締役再任案が否決される異例の事態となったのだ。山東如意がレナウンの業績悪化を受けて経営陣を刷新させようとしたもので、新たに毛利憲司取締役が社長に昇格し、会長に山東如意の邱亜夫董事長が就任。神保氏は相談役、北畑氏は顧問に退いた。社長が国内、会長が海外事業を担当するという。「雨降って地固まる」となれば良いが、「注記」もあって先行きは見通しがたい。
オンワードは希望退職、三陽商会は社長交代
業績低迷から希望退職の募集に踏み切ったのはオンワードホールディングス(HD)。2020年1月に実施し、予定数(350人)を2割上回る413人が応募した。割り増し退職金や店舗の減損損失などを計上するため、2020年2月期連結決算は240億円の最終赤字となる見通しだ。
三陽商会も2020年2月期連結決算で22億円の最終赤字となる見通し。最終赤字は4期連続。業績悪化の責任を取る形で1月1日付で社長が交代した。
暖冬やコロナという逆風が吹いているのは事実だが、人々の暮らしに衣類は欠かせないものでもある。気候変化への対応や販路をネットにシフトさせる動きが各社とも鈍かったことは否めないだけに今後、背水の陣で臨むことが必要となりそうだ。