小池百合子・東京都知事は、都内の休業を要請する対象施設を公表した会見で、新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言を受けた「知事の権限」について、こう漏らした。
「(知事は)社長かと思ったら中間管理職になったような...」
ここ数日、都と国の間で休業を要請する対象範囲をめぐって対立が表面化し、緊急事態宣言の出鼻をくじくかのような「協議」を続けていた。
休業要請めぐり「都VS国」
小池知事は2020年4月10日午後、休業要請の対象業種を発表した。都は当初、7日の宣言発令を受け、速やかに対象業種を公表する予定だったが、理髪店なども含む都の案に対し、慎重姿勢を示す国から「待った」がかかり、協議を続けていた。
宣言をうけて翌8日から、「緊急事態」に対処する生活が始まる、というタイミングだったが、そのスタート時点から「国と自治体の主導権争いが露呈した形」(10日・時事通信、ウェブ版=以下同=)といった印象を多くの都民や国民に与えてしまったようだ。
やや大振りに見えるマスクをつけて10日の会見に臨んだ小池知事は、施設の使用制限や宣言対象(7都府県)の他県との足並みに関する質問に対する答えのなかで、「(宣言をうけた)知事の権限」は地域の特性に合わせた対応をするべく与えられたものだと思う、との考えを示した。さらに、
「(知事の)権限は元々、代表取締役社長かなあ、と思っておりましたら、天の声がいろいろ聞こえてきまして、中間管理職になったような感じ...」
と、「中間管理職」のくだりでは笑顔も見せながら心境を吐露した。
「天の声」の「正体」について、小池知事は「国」の「く」の字も出さなかったが、7日以降の状況を踏まえれば、国の今回の特措法担当、西村康稔・経済再生相との協議を念頭に置いているのは明白だ。
「綱引きでブレブレ」「スピード感削ぐ対立」...
「宣言」の元となる改正新型インフルエンザ対策特別措置法(新型コロナ対策の特措法)では、対象区域の知事が「多数の者が利用する施設の使用制限を要請できる」と定めている。メディアでもたとえば、「緊急事態、知事に強い権限 特措法、外出自粛や土地収用―新型コロナ」(時事通信、3月28日)といった記事も出るほどの位置付けだった。
一方で、政府は4月7日、新型コロナ対策の「基本的対処方針」を改定し、店舗などの使用制限要請は、都道府県側と国が協議の上で決めるとしていた。
ここ数日間の「都VS国」の争いについては、「『早く決めて』国と都の綱引きで休業要請がブレブレ...時間との戦いなのに現場は混乱」(FNN<フジテレビ系>、9日)、「スピード感削ぐ国・都の対立 休業要請で溝、(以下略)」(時事通信、10日)といった批判的な見方を示した記事が相次いでいた。
改定「基本的対処方針」には、「こうした対策を国民一丸となって実施することができれば、(略)感染を収束の方向に向かわせることが可能である」と指摘している。都と国は一丸となって対策に当たることはできるのか。10日の朝日新聞夕刊1面(東京最終版)では、「(国と都が)お互いに一致できたことは本当によかった」と述べた安倍晋三首相のコメントを紹介しつつ、見出しの一部に「官邸幹部『知事に押し切られた』」とうたって報じていた。