安倍晋三首相が表明した、新型コロナウイルスに対する治療効果が期待されている抗インフルエンザ薬「アビガン」(一般名=ファビピラビル)の国内備蓄を「200万人分まで増やす」対応について、「既に200万人分を備蓄していたのでは?」と違和感を表明する人も出ている。同様の疑問を口にしたテレビ情報番組のコメンテーターもいた。
こうした反応は、2020年3月中旬に政府が決定した答弁書の中に「アビガン錠200ミリグラムを約200万人分備蓄している」とあったことを報じたニュースなどが念頭にあったようだ。今回の備蓄増加表明と、以前の政府答弁書の「200万人分」の意味合いの違いについて、厚生労働省にJ-CASTニュースが確認した。
テレ朝・玉川氏も疑問を口に
2020年4月7日の新聞大手各紙朝刊1面見出し(東京最終版)には、新型コロナ対策をめぐる「きょう緊急事態宣言」や「緊急経済対策108兆円」の文字が躍った。安倍首相が6日夕、新型コロナ感染症対策本部の中で表明した内容などを報じたもので、アビガンの国内備蓄量を「現在の70万人分から200万人分まで増やす」内容も含まれている。安倍首相の対策本部での発言模様は、民放夕方ニュースでも報じられた。
ところがアビガン備蓄をめぐってはツイッターで、
「3月に200万人分あった備蓄が、なんで70万人分まで減ってるの?」
「200万人分備蓄されていたはずのアビガンが70万人分」
といった反応も出て、中には3月17日配信の日刊薬業(ウェブ版)の記事見出し「『アビガン』の備蓄は約200万人、増量予定なし 新型コロナで政府答弁書」を紹介する人もいた。
「アビガン200万人分備蓄」に関しては、4月6日朝のテレビ情報番組でも取り上げられていた。政府方針として、6日付朝刊でも新聞各紙が言及していたことを受けたやりとりだ。
6日の「羽鳥慎一 モーニングショー」(テレビ朝日系)のレギュラーコメンテーター、玉川徹氏は、「アビガン200万人分備蓄へ」について、「この記事でひっかかった」として、
「アビガン備蓄の話、200万人分は、既に備蓄してあると認識してたんですが...」
と疑問を口にしていた。
厚労省「矛盾はない」
こうした反応が出た背景の一つで、先に触れた日刊薬業も取り上げた政府答弁書(3月17日決定)は、青山大人・衆院議員(国民民主党)の質問主意書に答えたものだ。アビガンの備蓄量について、
「新型インフルエンザを対象とした使用方法で換算した場合、現時点で、アビガン錠200ミリグラムを約200万人分備蓄している。また、現時点で、アビガン錠200ミリグラムの備蓄量を増やす予定はない」
としている。
答弁書では「新型インフルエンザを対象とした使用方法で換算した場合」との但し書きがある一方、6日夕の安倍首相の説明では「効果が見込まれる治療薬アビガンを増産し、現在70万人分の国内備蓄を200万人分まで増産させることで、万全の備えを行う」と、特段の前提条件には触れていない。
J-CASTニュースが7日、厚労省に確認すると、答弁書内容と今回の首相説明には矛盾はないとの回答だった。3月答弁書の「200万人分」は「新型インフルエンザを対象とした使用方法で換算した場合」であり、今回の首相説明の方は「新型コロナ感染症を対象とした使用方法で換算した場合」という違いがある。新型コロナ治療用に使うことを想定した場合の方が1人分の量が多くなり、担当者によると「投与期間も(新型インフルの場合より)長い」そうだ。その結果、現在は「(新型コロナ対策としては)70万人分の備蓄」という計算になる。
ツイッター上の反応の中には、こうした厚労省による回答内容と同様の理解を示す冷静な声も見受けられた。
政府は7日夕、「アビガン200万人分備蓄へ」の予算も含む緊急経済対策を臨時閣議で決定した。