岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
「マスク不要論」で感染拡大? 方針変更に怒る国民

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指針を見直し始めた「疾病対策センター」

   CDCは一般人のマスク着用について、指針の見直しを始めた。ワシントン・ポスト紙が入手した内部資料によると、「口や鼻をふさぐ簡単な布マスクでも、ウイルスの拡散を防ぐことができる」とされている。

   これを受けてトランプ大統領は4月3日、「CDCが何らかの方法で顔を覆うように要請している」とし、国民に対して外出時のマスク着用を推奨すると発表した。

   布マスクなら洗って使え、医療従事者のマスク不足を回避できる。しかし、米国で広くマスクを普及させるのは、文化的に難しいと思われることから、その着用は個人の判断に任せるものの、外出時は何かで顔を覆うよう、国民に勧告している。相手との距離をしっかり取り、手洗いなどは続けるべきであることは言うまでもない。

   2日の記者会見でトランプ氏は、医療用マスクが不足しないように、「鼻や口を覆うには、スカーフはもっとよいだろう。生地に厚みもあるから」と話した。

   米市民の一部からは前々から、「マスクに感染から守る効果がないというのに、なぜ医療従事者は使っているのか」と疑問の声もあがっていた。

   そして今、政府の指針が変わったことに、怒りをぶつける人たちもいる。

「政府や専門家の報道を信じて、これまでマスクをしていなかった。あれだけマスクは必要ないと言っておきながら、今になって主張を覆すとは」
「感染拡大前に、マスクをするようになぜ国民に訴えなかったのか。人々は何の予防もなしに、歩き回っていた」
「こんなに多くの命が奪われた。アダムス長官は辞任すべきだ」

との声もある。

   一般の人のマスク着用に効果があるのか。専門家の意見は今も分かれる。しかし、症状のない無症状感染者が、知らないうちにほかの人に移してしまうのを防げるとし、そのメリットを強調する医療専門家は確実に増えている。

   マスクを過信して手洗いや人との距離を取ることを怠る、マスクを正しく使わずに逆に感染のリスクを増やす、といった懸念もある。

   また、最もマスクを必要とする医療従事者の手に、ますます届かなくなる、という危機感もある。米国ではN95医療用マスクが足りていない。前線で働く医療従事者は、「同じマスクをし続けている」と訴えている。

   アメリカ人の友人から送られてくるマスク姿の写真を、私は今、複雑な思いで見ている。 お互いに顔を全部見せて、笑い合える時が一刻も早く来てほしいと祈るばかりだ。(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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