「なぜ看護師が外を歩いている」。訪問看護師の女性は、停めていた会社の車に乗ろうとした時、突然呼び止められた。「お前のせいで感染が拡がるだろう」。次々に偏見に満ちた罵声を浴びせられた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴い、医療従事者への差別や偏見が報告されている。この女性も、まさにその1人。自らの体験をツイッターで明かすと、大きな反響を呼んだ。「医療に携わる方が私の経験を知っていたら、もし同じことが起きた時、一歩引いて受け止められるんじゃないか」。女性は取材に、投稿に込めた思いを明かした。
「とにかく迷惑だから外を歩くな」
「悲しいことがありました」。女性が投稿したのは2020年3月30日。この日、訪問看護を終えて車に戻ろうとすると、車に書かれた社名を見ている男性がいた。訪問看護と書いてあることから「お前は看護師か」と聞かれた。「はい」と頷くと、男性の表情が強張った。「なぜ看護師が外を歩いている」「お前のせいで感染が拡がるだろう」
女性は自身の仕事について説明。だが「そんな事は知らない。看護師が外を歩くなんて言語道断だ」と理解されない。さらに「お前の患者にもコロナはいるだろう、そいつの家を教えろ」。女性は、守秘義務もあって教えられないことや、もし新型コロナウイルス感染が分かったら適切に届け出ることなどを伝えた。それでも罵声は止まず、男性は「捨て台詞」とともに去って行った。「とにかく迷惑だから外を歩くな」
こうした体験談に続き、女性は訪問看護師の存在を知ってもらいたいとメッセージをつづっている。おむつ交換など生活の介助から、人工呼吸器のケア、終末期の看取りまで、携わることは幅広い。患者の自宅は当然、病院のように医療機器が整っていない。緊急の連絡があれば昼夜問わず駆けつける。
女性は「コロナに関係なく、極端な事を言えばわたしたちが行かなければ重症化する・ご家族と共倒れになる患者さんがいるのです」とし、「そんな看護師たちがいることを、知って下さい。不必要な差別や偏見で傷つけないで下さい。どうか、嫌な思いをする医療関係者が、これ以上増えませんように」と願った。
訪問看護は在宅医療の1つ。公益財団法人・日本訪問看護財団のウェブサイトによると、地域の訪問看護ステーションなどに詰める看護師が、主治医と密に連携しながら患者の住まいを訪問する。看護の内容は医療上の各種ケアだけでなく、日常生活の支援、心理的支援、患者家族からの相談など多岐にわたる。