「質問が聞こえない」「ほかの質問に移ろう」――。香港のニュース番組に出演した、WHO(世界保健機関)のブルース・アイルワード事務局長補佐官のインタビューが波紋を広げている。
台湾の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策について、意図的に回答を避けるような場面があり、台湾の外交部(外務省に相当)が「パンデミックへの対処には政治は別にすべきだ」と抗議する事態に発展している。
WHOをめぐっては、「中国への過剰な配慮で感染拡大を招いた」との指摘もある。
台湾加盟を拒否するWHO
香港の公共放送「RTHK(香港電台)」の報道番組で2020年3月28日、アイルワード氏がテレビ電話でのインタビューに応じた。
アイルワード氏は前半、「WHOは非常に早い段階でこのウイルスがパンデミック(世界的流行)になる可能性があると認識していた」とする見解や、中国での感染対策を振り返った。
その後、番組では(1)台湾では先週末に252人の感染が確認されるも死者はわずか2人だった(2)台北は19年12月末、WHOに「ヒト・ヒト感染」のリスクについて警鐘を鳴らしていた――と、自国の感染対策を紹介するシーンを挟む。台湾の対応は国内外から一定の評価を受けているが、「一つの中国」を掲げる中国への配慮からか、WHOは加盟を拒否している。
そうした背景を踏まえ、番組プロデューサーは「加盟を再考するつもりはあるか」と問うと、アイルワード氏はしばらく沈黙し、「質問が聞こえない」と回答。もう一度質問すると返すと、「いいえ、結構だ。ほかの質問に移ろう」とはぐらかした。
プロデューサーは、台湾での感染対策についても話したいと切り出すと、なぜか回線が遮断。電話をかけ直し、ふたたびコメントを求めると、「中国についてはもう話した」「中国のすべての地域で(対策は)順調に進んでいる」などと答えるにとどめた。
トランプ氏「WHOは中国に肩入れしている」
アイルワード氏の言動は、台湾内外で物議をかもしている。
インタビューを書き起こした記事や動画がSNS上で拡散し、台湾の外交部は29日に「WHOは『台湾』と発声することさえできないのか。パンデミックへの対処には政治は別にすべきだ」などとツイート。
自民党の長島昭久衆院議員もツイッターで「最低だな。でも、WHOから外された台湾が、世界のどの国よりも感染拡大を阻止し得たのは誠に皮肉」と投稿した。
WHOをめぐっては、テドロス・アダノム事務局長の中国を持ち上げるような発言が目立つ。中国側も、WHOへ2000万ドル(約21億円)の寄付を表明するなど、両者は蜜月といえる。
アメリカのトランプ大統領は3月25日の記者会見で、「(WHOは)中国に肩入れしている」とWHOの立場を疑問視。署名サイト「Change.org」でも、「テドロス氏は客観的な調査や評価を全く行う事もなく、中国政府から報告されている死亡者、感染者数を鵜呑みにしています」として、テドロス・アダノム事務局長の辞任を求める動きがあり、30日現在で66万筆集まっている。