岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
NYで私を待っていたコロナ騒動

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「日本から」にエレベーターで後ずさり

   街中で人とよく言葉を交わし、他人とでもハグすることの多い私は、今回初めて人との距離を意識した。何の症状もなく、いたって健康だったが、万が一、自分が感染者だったとして、相手に移すことのないようにと、なるべく距離を取った。

   とはいえ、取材もしなければならない。話す時、無意識に、大きく口を開けず、おちょぼ口になっている自分に気がつく。

   入国した当初のニューヨークでは、まだそれほど緊張感はなかった。コロナについて尋ねると、さほど心配している様子もなく、「手を洗って、できることをするしかないわね」と答える人が多かった。

   小さな消毒液のボトルをバッグにぶら下げていた若いイスラエル人女性に声をかけると、「コロナ、怖いわ」と言いながら足早に去っていった。何人も話したなかで、その人がとくに印象に残るくらい、ごく普通に生活しているように見えた。

   ただ、「日本から来たばかり」と話すのは、正直、ためらわれた。

   入国して数日後、70代くらいの女性とエレベーターで一緒になった。

   コロナについて聞くと、「I'm cautious, but not worried.(気をつけてはいるけれど、心配はしていないわ)」と答えた。

   そこに50代くらいの男性が乗ってきて、「君はどうなの?」と私に声をかけてきた。

   「私は日本から来たばかりだから」と話し始めると、さっきの女性が横目で私を見ながら、「あららら」と後ずさりした。

   私がわざと驚いたように女性を見ると、「冗談よ」と戻ってきた。

   私は機会あるごとに、「横浜のクルーズ船で日本政府の対応には批判の声もあるけれど、乗客4千人近い規模の大型船の検疫はこれまでに例がなく、相手は未知のウイルスだった。英国籍の船、米国のクルーズ会社で、感染者が出てからもパーティやビュッフェなどを続けていた」と説明した。

   が、日本で思うほど、クルーズ船や日本のコロナ事情について詳しく知っている人ばかりというわけでもない。

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