2020年3月のわずか10日ほどで、ニューヨークは一変した。今回は自らの経験から、その様子を伝えたいと思う。
私は2020年2月29日に東京からニューヨークに戻る予定だった。
大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号で起きた集団感染が盛んに報道されていた直後で、日本では感染拡大を恐れ、さまざまなイベントが中止となり、時差出勤やテレワークを始める会社も現れた。
2月20日頃から、他国では日本への渡航を警戒し、日本からの入国を制限・拒否する動きも出てきた。米国が日本全土への渡航警戒レベルを4段階中で下から2番目の「注意を強化」に引き上げたため、日本からの入国制限措置が取られることを恐れ、予定を早めて2月26日に日本を出ることにした。
26日時点での感染者数は、日本(クルーズ船を除く)が170人だったのに対し、米国はわずか57人だった。
「コロナ、持ってこないでね」
ニューヨーク在住の知人に連絡すると、「See you soon.(もうすぐ会えるね)コロナ、持ってこないでね」と片目をつむった顔文字入りでメッセージが届いた。
成田空港の出発ロビーでは、マスク姿に抵抗があるはずの欧米の観光客らの中にもマスク姿が多く見られ、驚いた。
この連載の「マスク姿のアジア人はなぜ怖がられるのか」(2020年2月22日配信)で触れたように、これまで欧米では、日常の生活でマスク姿を見かけることはほぼ皆無で、異様な目で見られていた。医療関係者以外がマスクを着けていれば、重病患者だと思われた。
しかし、ニューヨーク行きの機内でも、そばにすわっていた白人男性は食事の時以外、ずっとマスクをしたままだった。日本に滞在していたこうした欧米人にとって、マスクは「自分と相手を守るもの」に変わっていた。
ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港の手荷物受取所で、機内での喉の乾燥から私が軽く咳払いすると、すぐそばにいた50代くらいの白人女性がじろりと私を見た。
「コロナが心配だから、私を見たのかしら」と聞くと、「そうよ」と答えた。
その人は四日間、スペインを旅行し、帰国したところだという。
「さっき機内でそばにいた女の人が、ずっと咳をしっ放しで、たまらなかったのよ」
空港を出ると、私はマスクを外した。地下鉄でも街中でも、マスク姿の人は、たまに見かけるアジア人以外、誰もいなかった。そんななかで目立つ白いマスクをするのは、自分でも違和感があった。