自然災害が発生すると、市町村は住民への災害関連情報を提供する「臨時災害放送局」を開設できる。総務省によると東日本大震災では岩手、宮城、福島3県で24の自治体に上った。2018年3月31日までにすべて閉局したが、中にはコミュニティーFMとして今も放送を続けている局がある。
地域と密着し、市民のための情報を提供する小さなFM局は、「復興五輪」に何か感じるものはあるだろうか。
震災を語り継ぐ番組を今も放送中
「石巻コミュニティ放送」(ラジオ石巻、宮城県石巻市)は1997年に放送開始し、石巻市と東松島市をカバーする。2011年3月11日、石巻市は津波で沿岸部が壊滅的打撃を受けた。スタジオは内陸部にあったため津波を免れたが、その日の夜にバッテリーが切れて放送が途絶えた。そこで市街地にある高台の日和山公園の送信所にスタッフを送り、機器をつなぎテントを張って3月13日に「青空スタジオ」を開設。公園に避難していた被災者から「家族の居場所がわからない」という声が寄せられ、市民の安否情報を流し続けた。
その後、臨時災害放送局「いしのまきさいがいエフエム」として災害関連情報を提供。石巻市役所にも臨時局を設け、一時は2局で運用した。震災前から地元に根付いたFM局だったので、市民にとってはなじみのある、信頼できるメディアとして活用された。
2015年3月に臨時災害放送局の役割を終え、コミュニティーFMに戻った後も、震災を語り継ぐ番組「市民とつなぐ『あなたの出番』です」を続けている。毎回ゲストを招いて震災当時の体験談を聞き、次のゲストを紹介してもらってバトンをつないでいく。2020年3月23日の回は、石巻市でブライダル事業を手掛ける女性が登場。発災時は首都圏在住で、実家と連絡が取れたのは1週間後、姉の携帯電話に偶然つながって状況を知ったと話した。
「話をして楽になった、(震災後)1~2年たってようやく話せた、という声を聞きます。『これは(番組を)やってよかった』と思います」
ラジオ石巻専務取締役・高須賀精一郎さん(69)は、こう話す。自身、津波で自宅1階が水没。近くのビルに避難し数日間孤立した。津波のごう音の後、恐ろしいまでの静寂が続く中、耳にした音楽が心にしみ、涙が出たと振り返る。実はラジオ石巻にも、被災したリスナーから「音楽が聴きたい」とリクエストがあり、2011年4月から音楽を流し始めたそうだ。このように市民の要望にこたえ、「自分たちのラジオ局だと思ってもらう」番組作りを心掛けている。