新型コロナウイルス対策として香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が突然打ち出した「禁酒令」が大不評だ。
「多少飲みすぎて親密な行動に及ぶこともあり、感染のリスクが高まる」というのがその理由だが、その効果が必ずしも明らかではない上に、「禁酒令」は、周辺の異論を聞かずに発表された可能性もありそうだ。
「多少飲みすぎて親密な行動に及ぶこともあり、感染のリスクが高まる」
香港政府のまとめによると、2020年3月27日夕時点で453人の感染が確認され、そのうち4人が死亡した。香港の外からウイルスが持ち込まれる「第2波」の事例が特に問題になっており、林鄭氏は3月23日の記者会見で、水際対策の強化策を表明した。その内容は(1)非居住者の入域を14日間禁止する(2)無症状感染者を迅速に発見するため、すべての入域者に唾液サンプルを提供させる(3)隔離指示に従わなかった人への罰則強化、といったもので、4番目の対策が「禁酒令」だ。林鄭氏は、その理由について
「最近、バーや集会に行って感染する事例が相次いていることが議論になっている。バーでの行動は、よりリスクが高い。飲食店では食べ物を提供するが、バーでは客が近い距離で座って話す。多少飲みすぎて親密な行動に及ぶこともあり、感染のリスクが高まる」
などと説明。法律を改正し、酒類販売免許を持つ全8600店舗の飲食店やバーなどで酒の提供を一時的に禁止する方針を明らかにした。ナイトスポットして有名な蘭桂坊(ランカイフォン)で複数の感染事例が発生し、クラスター(感染者集団)の可能性が指摘されていることを念頭に置いたとみられる。改正の時期については明言しなかった。
「社会的距離」保つ他の方法なら喜んで検討するが...
現地紙のサウス・チャイナ・モーニング・ポストによると、林鄭氏の顧問のうち、少なくとも5人が「禁酒令」に異論を唱えていた。例えば、弁護士会の会長などを歴任した湯家?(ロニー・トング)氏は、4人を超える人数の集会を制限したり、さらに感染者が増えた場合に外出禁止令を出したりすることを提案したが、3月23日に発表された対応策には取り入れられなかった。顧問のひとりの葉劉淑儀(レジーナ・イップ)氏は、禁酒令の実効性に疑問を呈したという。
同紙では、「香港政府筋」の
「『(他人と一定の距離を保つ)社会的距離』を保つのに役立つ他のやり方は、是非とも検討したい。例えばバーや飲食店の営業時間を制限したり、そういった場での机の感覚を広げたり、といったことだ」
といった声も伝えている。「社会的距離」を保つための手段が誤って解釈された可能性もありそうだ。
香港大学法学部主任講師の張達明(エリック・チャン)氏は、
「特定の集団に検疫を受けさせたりする措置であれば、すでに条例に書き込まれているので、すぐにできる。だが、今回のような制限は条例では示されておらず、改正作業が必要で時間がかかる」
とも指摘したという。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)