新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急経済対策で、政府が旅行代金の一部助成を検討していると報じられ、ネットで疑問や批判も相次いでいる。
人々の移動を制限するなどしているときに、なぜ逆のことを勧めるのかといった理由からだ。政府には、どんな事情があるのだろうか。
上昌広さんは、「海外とは真逆の政策」と指摘
共同通信や日経などの報道によると、30兆円を超える規模ともされる緊急経済対策は、2020年4月に補正予算として取りまとめられる見通しだ。
この対策では、現金や商品券の支給に加え、冷え込んでいる外食や旅行の需要を喚起するため、消費者が支払う代金の一部を助成することを検討している。具体的には、クーポンを発行したりポイント還元を利用したりする方法が考えられている。日経の報道では、旅行機会の多い高齢者への助成を手厚くすることも考えているという。
一方、消費減税は、見送られる公算が高いと報じられている。
こうした報道に、感染症に詳しい識者からは、疑問の声も出た。
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんは2020年3月23日、「旅行や外食を奨励、という、ここでも海外とは真逆の政策です」とツイッターで指摘した。イギリス在住の免疫学者の小野昌弘さんも同日、「目を疑う」とツイートし、「世界中で感染爆発し各国が警察使って市民の移動制限・封鎖して流行抑制に必死な横で、日本は旅行に補助金を出すとか冗談であってほしい」と漏らした。
脳科学者の茂木健一郎さんは同日、ツイッターでこんな見解を示した。
「感染拡大抑止のため移動の制限が必要な状況なのに、旅行代を助成することは、アクセルとブレーキを一度に踏むようなもので理解しにくい。旅行の減少で影響を受ける関連業者への直接支援の方が効果的では?」
ツイッターやネット掲示板などでも、ツッコミが相次いでいる。
旅行への助成は、感染収束後を考えている?
「世界中でレストランを閉鎖し、旅行や移動を制限しているのに?」
「何この一貫性も何も無い場当たり的な対応...。 日本政府は何がしたいんだ」
「消費者助成は収束後に遠のいた客足を戻すための措置」
「必要なのは消費振興ではなく、消費が一時減っても業界の人が生きられるための所得補償では」
自民党の二階俊博幹事長が全国旅行業協会の会長もしていることから、何らかの思惑があるのではないかとの憶測まで流れていた。
全国旅行業協会は3月3日、感染拡大で旅行の中止や延期が急増して経営環境が厳しいとして、政府与党に要望書を提出している。
協会の広報担当者にJ-CASTニュースが23日に取材したところによると、要望書では、雇用調整助成金での援助率アップなどのほかに、旅行需要の喚起についても盛り込んでいた。
ただ、広報担当者は、次のように取材に説明した。
「社会情勢が落ち着かないと、安心して旅行できないでしょう。リスク管理をしている厚労省などの判断の下に、新型コロナウイルスの感染が収束して旅行できるめどが立ってから、ということです。震災後にあったキャンペーンと同様ですが、各社は資金繰りに問題を抱えており、できるだけ早くとは考えています」
旅行への助成は感染収束後を考えているかについて、観光庁の旅行振興参事官室に取材したが、担当者が打ち合わせ中などとして23日中に話は聞けなかった。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)