ブロードウエイもタイムズスクエアも人がいない
マンハッタンの東隣のクイーンズ区のインド料理店では、客のいない店でオーナーがひとり、テレビを見ていた。
「この先、本当に心配だよ。この通り、客は誰もいないさ。テイクアウトにだって、客なんか来やしないさ。明日のことはまったくわからない。だからみんな、テレビのニュースに釘付けだ。それがまた、不安をあおるんだ」と表情は暗い。
マンハッタン南部のチャイナタウンもリトル・イタリーも、街ゆく人はまばらで、ゴーストタウンのようだ。いつもなら地元の買い物客や観光客でごった返し、リトル・イタリーの店先では大声で盛んに客引きをしている。
チャイナタウンの土産店のオーナーで、バングラデシュ出身の男性は、「今日の客? 朝からたったひとりだよ。10ドルの携帯充電器を買ってくれた」と肩を落とす。その時、すでにもう、夕方4時を回っていた。
トランプ米政権は3月14日から欧州26カ国を対象に入国制限を開始。16日には、イギリスとアイルランドもそれに加わった。
セントラルパークの屋台でホットドッグなどを売っているエジプト人のモハメッドは、「今日の売り上げは、いつもの10%だよ。コロナはしばらく収束しやしない。この状態が続いたら、家賃を払えるかどうか。コロナのせいで、こんなことになっちまったんだ」と苦々しそうに言う。
ブロードウエイ・ミュージカルの劇場、オペラハウス、コンサートホール、図書館も閉鎖。会場やスポーツなどのイベントも相次いで延期・中止となった。
いつもは多くの人で賑わうロックフェラーセンターのスケートリンクも、16日昼過ぎに滑っていたのは1カップルだけ。
「ふたりでリンクを独占なんて。いくら払ったのかしら」とジョークを投げかけると、「いいだろ。通常料金だよ」と笑って答えた。
テロ跡地にできた「911 Memorial&Museum」も封鎖され、昼間だというのに、そのすぐそばにあるニューヨーク市とニュージャージー州を結ぶ鉄道(PATH)の駅はガラガラだった。通勤列車が多く発着するターミナル「Grand Central Station(グランド・セントラル駅)」も、人影はまばらだ。
全米や世界中から観光客が集まるタイムズスクエアも、今は閑散としている。そこにある大型ホテルに入ってみると、ショップにもレストランにも人はほとんどいなかった。静まり返ったレストラン内に、コロナ感染を報道するCNNのテレビの音声だけが流れていた。
エレベーターで同僚と立ち話していたホテル従業員は、「今日も客室の1割しか埋まってないよ。タイムズスクエアの劇場も何もかも閉まってるんだ。ここに泊まる理由もないからね」と首をすくめる。
レストランで暇そうに立っている男性シェフ2人が、さみし気な笑顔を私に向け、手を振った。