2020年1月25日の春節から、筆者は北京の自宅で「謹慎」し、団地からあまり出なかったが、食事、野菜、日常用品など、どうしても必要なものは何でもネットで購入していたので、不自由はあまり感じなかった。新型コロナウイルスの爆発的な発生があった武漢さえも、コロナ肺炎の新規の患者が1日に一人程度になり、40日ぶりに車で市内に買い物に出かけた。
長い長い買い物リストを作り、車いっぱい分を買うつもりだったが、スーパーの地下駐車場の前で止められ、体温を測り、駐車場の契約カードの提示を求められた。スーパーの職員ではないので入れられないといわれ、帰らせられてしまったが、納得はした。
抜けた入れ歯を治療する歯医者もいない
コロナウイルスを速く抑制するための政策で、人の流れが厳しく制限された結果、モノの流れも急激にブレーキがかかった。経済の減速も非常に速かった。
国家統計局が3月16日、2020年1月から2月の経済統計を発表したが、昨年同期比で2桁の減少の数値がずらりと並んだ。
「工業増加値」(日本では「鉱工業生産」)が13.5%減、「小売り総額」は20.5%減、全国固定資産投資も24.5%減で、全国不動産開発の投資と販売が16.3%減だった。唯一1桁減となったエネルギー生産が8.2%減であった。
武漢市などだけではなく、北京でも日銭を稼いで生活する人が多い。まだ飢えることはないが、健康なのに移動できないため生計が立てなくなる人もたくさん出ている。
すべての飲食店はデリバリーしかやっていない。学校の再開は3月いっぱいまでは無理のようだ。病院もほとんど閉鎖されている。筆者は入れ歯が1か月前から抜けているが、歯医者自身も病院に行けないので、抜けたままで我慢している。
「500兆円のインフラ予算」というSNS情報
その一方で、3月17日現在、テレビでは朝から、中国全土の各省から武漢に派遣されていた医療チームが撤退するニュースが流されている。総勢約4万人の支援チームは続々と各省に戻りつつある。
武漢に出かける前に若い医師や看護師が、男女を問わず急いで丸坊主になったが、ニュース映像を見ると、間違いなく女性の看護師たちもけっこう黒い髪が生えてきていた。ここ2、3日のうちに全員撤収するという。
経済活動が復活する兆しも見えてはきた。ある県の共産党書記はテレビに出て「うちの県の地鶏は今も100万羽ほどの売り先を探している」と話していた。若い出稼ぎ労働者は、出かける前にきちんと散髪して広東の企業がチャーターしたバスに乗り、内陸から沿海部に出かけようとしていた。
世界的なコロナウイルスの感染が欧米で急拡大する反面、政府発表では収束傾向にある中国では、経済は3月の下旬から変化するだろうとの予測も出ている。中央政府は、湖北省でも新たな患者が出ていないところでは、閉鎖した団地や村を開放せよと既に命令を下している。要人も多い首都・北京ではなかなか閉鎖令を解かないだろうが、北京以外のところは緩和していくとみられる。
中国経済は今後、加速度的に復活する可能性もあるとの期待も膨らんでいる。「政府は34兆元(500兆円強)の情報インフラ予算を編成している」などの出所不明の情報がSNSからどんどん出てくるからだ。
テレビでは、出稼ぎに行く労働者が「1日10時間ぐらいは働きたい」と言い、「レストランが開かれたら、2か月も飲んでいない酒をこれから飲みにいく」と消費者が語っている。 少なくとも中国国民の関心は、新型コロナへの恐怖から、医療支援チームの撤収、そして消費の正常化へと移りつつある。
(在北京ジャーナリスト 陳言)