もともとあまり全国的な知名度が高くないため、多くの国民に気付かれていない可能性があるが、島根県(島根県教委)は47都道府県としては唯一、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐためとした安倍晋三首相による全国一律の休校要請を「はねつけ」、県立高校や特別支援学校の休校を見送る決断をした。
2020年3月17日16時現在、県内では感染者が確認されていないため、県教委として休校見送りを継続中。開校することによる県民への感染拡大は確認されておらず、県内では「英断」との声が多く聞かれる。
ちなみに、大量の感染者を出した「ダイヤモンド・プリンセス」号の下船者に島根県在住の人が2組4人いるが、いずれも下船から2週間の健康観察期間終了後のウイルス検査で陰性が確認されている。
県内に感染者が出れば休校へ
「英断」に踏み切ったのは丸山達也知事(49)。この人もあまり知られていないかもしれないが2019年4月、保守分裂し「竹下・青木王国の瓦解」と言われた知事選で、「造反」の自民県議や野党の支援を受けて自民党本部推薦候補をくだして初当選した人だ。福岡県出身で島根県庁での勤務経験を持つ元総務官僚。「島根県に骨を埋める」を公約に掲げ、当選後も知事公舎に住まずに自宅を持つことでその公約を実行している。
丸山知事が休校見送りを表明したのはちょうど開会中だった県議会の本会議。首相が突如要請を打ち出した2月27日の翌28日午後のことだ。昼休憩時に知事ら少数の幹部で方針を確認したうえで、本会議の最後に発言を求め、「政府の認識は理解しつつ、生徒の学習の遅れや休校時の家庭の負担を最小限にするため」と語り、県立高校と特別支援学校は当面休校にしないと明らかにした。
この日朝に配信された、文部科学省が都道府県に休校を要請する通知において、「期間や形態は設置者において判断することを妨げない」旨記述された点が知事の判断根拠だったとされる。県内に感染者が出た場合は翌日か翌々日に休校にし、小中学校は設置者の市町村の判断に委ねる。中学3年生の高校入試を含めてさまざま、やる事の多い3月を控え、県立高校の教員らの間に安堵の声が広がった。
小中学校で対応分かれた背景
ただ、小中学校については、対応が分かれた。人口約67万人(19市町村)の島根県で約20万人の松江市、約17万人の出雲市といった大どころ(2市で県民の過半)を含む8市町村は県教委の判断も踏まえて休校を見送ったが、県西部や山間部、隠岐諸島の一部の計11市町(人口計約22万人)は休校した。
これは県教委が2月27日夜に「県立学校長に休校を指示する予定」との文書を市町村教委に送付したため、28日午前のうちに休校措置を決めて具体的に動き出した市町があったためだ。一度決めて動き出すと引き返しにくいのが役所という世界。県教委とのコミュニケーションが薄いことでかえって山間部や離島で休校が相次ぐことになったとの見方がある。休校した自治体のうち、奥出雲町と飯南町は「県内で感染者が確認されておらず、児童生徒の学習機会を確保する」ことを理由に3月16日に町立小中学校を再開した。
松江市内の飲食店にぎわい...なぜ?
島根県の異例の判断は休校にとどまらない。全国的には「繁華街に閑古鳥が鳴く」との報道が相次いでいるが、内々に、「県内で感染者が出ない限り、送別会等は予定通りに開くように」と指示しているのだ。地方経済において県庁の宴会需要は大きいので維持に努めようということのようだ。松江市内の飲食店に聞いてみると、「大手企業の宴会キャンセルはあるが、確かに県庁はない」との反応だ。筆者は3月、松江市内の比較的規模の大きい飲食店で2回送別会に参加したが、いずれもほぼ満員御礼だった(無論、客は県庁だけではないが)。
安倍首相は国会答弁で休校要請について「専門家の意見をうかがったものではない」と述べた。他方、WHO(世界保健機関)が中国で新型コロナウイルスに感染した5万5924人を調査したところ、18歳以下の感染者は全体の2.4%で、そのうちで重症になったのは2.5%にとどまる。感染した年少者の多くは大人と濃厚接触した人を調べる過程で見つかっており、また子どもから大人に感染した例は確認できなかったとされ、子どもについては家庭内感染が大半を占めるとみられている。
首相の休校要請への評価は今後の精査を待つべきだろう。また今後、島根県内を震源地に感染者が爆発的に増える可能性もゼロではない。それでも、今のところ、学校、保護者、子どもの負担を軽減した丸山知事の判断は県内では高く評価されている。