日本最大級のネット通販サイト「楽天市場」を運営する楽天が、「送料無料」サービスの延期に追い込まれた。2020年3月18日から、3980円以上を購入した場合に送料を一律無料とする方針だったが、6日になって、全店舗での一斉導入を見送り、導入可能な一部店舗だけで始めると発表した。
新型コロナウイルスの感染拡大を理由に挙げているが、独占禁止法の「優越的地位の乱用」に当たりかねないと牽制した公正取引委員会の攻勢に一歩退いた形だ。
VS公取委、二転三転の展開
楽天は、送料については出店者に任せてきたが、3月18日から、3980円以上の購入は、沖縄・離島発送を除き、全店舗一律に、出店者負担で送料無料にする方針を打ち出し、2019年12月19日に出店者に通知した。ライバルのアマゾンが基本的に2000円以上購入すると配送料無料(プライム会員は購入額にかかわらず無料)としているのに対抗する狙いだ。
楽天は2019年1月に無料化方針を表明して以降、全国5万の出店者を対象に各地で説明会を開いて理解を求めてきた。しかし、反発は根強く、10月に「一方的なルール変更」だとして約200の事業者が送料無料化の撤回などを求め、「楽天ユニオン」(任意団体)を設立し、公正取引委員会に調査を要請した。
楽天のような「プラットフォーマー(PF)」と呼ばれる巨大IT企業の力は圧倒的で、出店できないと販売ルートを失う小規模出店者には死活問題になることから、送料負担の強制は独禁法の優越的地位の乱用にあたる可能性があるという主張だ。
年明けから先の動きはめまぐるしい。
2020年1月22日、ユニオンが公取委に対し、調査を求める1766件の署名を提出。
2月10日、公取委が独禁法違反(優越的地位の乱用)の疑いで楽天に立ち入り検査。
13日、楽天は「送料無料」を「送料込み」と言い換え、送料を上乗せした価格表示を容認、今回の措置の影響で退店する事業者には出店料を返す方針を表明するも、3月18日から予定通り実施する基本方針は変えず。
28日、公取委は、送料無料化を実施しない緊急停止命令を楽天に対して出すよう、東京地裁に申し立て。
3月5日、送料無料化に賛成する楽天の出店者グループが、導入延期を申し入れ。
6日、楽天が、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に、送料無料化の一律実施の見送り、参加を各店舗の判断に委ねると表明。実施する店舗に対する資金支援策も公表。
10日、公取委が、緊急停止命令を出すよう求めた緊急停止命令の申し立てを取り下げ。
三木谷社長の「危機感」
これで、楽天と公取委は「休戦」に入った形だ。
楽天の三木谷浩史会長兼社長は新聞のインタビューなどで「独占禁止法違反にはあたらないと思っている」「公取委と対峙しようとも必ず遂行する」などと繰り返し述べ、一律無料化に強い決意を繰り返している。「(無料化しないと)どんどんビジネスが縮小して、最後は全部(アマゾンやアップルなどの)GAFAに食われちゃいますよ」(毎日新聞1月23日朝刊)という危機感が背景にある。
他方、公取委がネット通販サイト出店事業者を対象に2019年2~3月に実施したアンケートで、楽天について「一方的な規約の変更があった」との回答が9割を超え、アマゾンなどを上回っていた。また、2019年、オンライン旅行の「楽天トラベル」が観光ホテルなどに最安値の保証を求めていたとして公取委の立ち入り検査を受け、楽天側が問題を認めて自主的に改善計画を提出し、違反認定や排除措置命令を免れたこともある。
対アマゾンでは巨大なGAFAの一角と必死に戦う挑戦者、出店者に対しては生殺与奪の権を握るプラットフォーマー――楽天の二重性だ。前者の立場で見れば、送料一律無料で対抗しようというのは「理解」できる。一方で出店者からみると送料無料を強制するのは「理不尽」となる。
今後の展開は?
楽天は独禁法に違反しないとの基本姿勢は堅持しており、送料無料化の「一律」実施を見送ったが、断念したわけではない。そのうえで12日に、無料化を実施した出店者への支援策として、4月1日~6月30日の3カ月間、注文1件あたりメール便で100円、宅配便は250円を提供すると表明。自前の配送サービス「Rakuten EXPRESS」も引き続き推進し、2021年には出店者の配送量の50%をカバー(現行は約10%)する方針で、出店者の送料負担を軽減させ、一律無料化の条件整備にも引き続き力を入れ、5月に、一律実施について、改めて方針を説明するとしている。
一方、公取委は、楽天が無料化しなくてもよいと認めたことで、強制性がなくなったと判断し、緊急停止命令の申し立てを取り下げたが、独禁法に基づく調査は継続し、「優越的地位の乱用」と目止めれば正式な処分をする方針を維持している。
楽天側と公取委・一部出店者の双方の対立は、根っこでは何も解決したわけではなく、問題は長期化しそうだ。