2020年4月から携帯電話に本格参入する楽天が「ワンプラン」と称し、データ通信量の上限なしで一律月2980円(税別)の料金を発表した翌日の3月4日、KDDI株が一時、前日終値比6.2%(188円)高の3234円まで上昇した。
楽天は、東名阪の都心部以外の自前でカバーできないエリアでは、KDDIの通信設備を利用するローミング(相互乗り入れ)契約を結んでおり、KDDIのローミング収入への期待がKDDI株の買いを集めた。
わかりやすい料金体系のライバル登場に売られる局面かと思いきや、逆に買われることになった。もっとも、NTTドコモ株(4.3%高)とソフトバンク株(3.2%高)も上げており、「ワンプラン」は必ずしも既存3社の脅威とはみられていないようだ。
ローミング収入を期待
改めて楽天の発表内容を確認しておこう。既存3社の通信料金は、データ通信量などによって複数のプランがあるうえ、ある条件を満たせば割引が加わるなどに非常に複雑だ。また、その料金体系も時を追うごとに変化していくため、現状に追いつくのも一苦労。楽天が顧客獲得に向けてそこを突き、さらに料金を既存3社の大容量プランの半分以下とする「衝撃的な価格」(三木谷浩史会長兼社長)としたのが、自社エリアならデータ通信量上限なしで月2980円の「ワンプラン」だ。しかも「先着300万人」については1年間通信料金を無料にする。
楽天は東名阪の都心部で自前のネットワークを構築中だが、カバーできないエリアでは、KDDIの設備を利用するローミングによってサービスを提供する。KDDIエリアにおいて楽天の顧客が1カ月に利用できるデータ容量は2ギガバイトが上限で、上限を超えると速度制限がかかる。
ここで着目すべきは「無料」だ。いくら誘客策と言っても「タダより高いものはない」と疑ってかかる人もいるだろう。通信の安定度がやや不安にもなる人もいるだろう。しかし、「タダなら試しに楽天を使ってみようか」という人も一定数いるだろう。それがもし300万人という規模になればローミングもそれなりに発生し、通信設備の利用料がKDDIの懐に転げ込む、というのがKDDI株が買われた要因だった。
21年3月期には150億円の収入も
もともと既存3社の足元の業績は堅調だ。2019年10月に端末価格の安売りを規制する新ルールが施行された結果、端末を売るための販売促進費が減少。2019年10~12月期にソフトバンクとKDDIの営業利益は10%台の増益を確保した。こうした下地のもと、特にKDDIについてはローミングの恩恵が期待できることから、過去半年間に証券各社が目標株価を相次いで引き上げていた。
2019年11月20日付リポートでKDDIの目標株価を3000円から3500円に引き上げたSMBC日興証券はKDDIのローミング収入について2021年3月期150億円、2023年3月期450億円と試算した。その期待が楽天の「無料」発表によってより現実的になったことがKDDIの株価を上げた。
新型コロナウイルス問題をめぐり、日経平均株価が一時1万7000円を割るなど、大荒れの株式市場。KDDIをはじめ携帯3社もその例外ではなく、今後については見通しづらいが、4日の動きは、楽天に対する市場の感触を図らずも露呈したともいえそうだ。