比嘉大吾「契約解除」を可能にした、ボクサー「ジム移籍」事情の変革

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   ボクシングの白井・具志堅スポーツジムは2020年3月13日、同ジムに所属していた元WBC世界フライ級王者・比嘉大吾(24)と契約を更新しないことを発表した。 同ジムの公式サイトによると、3月11日をもって比嘉がジムを離れることになった。比嘉は今後、引退することなく現役を続ける意向で、日本ボクシングコミッション(JBC)に加盟する国内のいずれかのジムに移籍することになる。

  • 白井・具志堅スポーツジム公式サイトより
    白井・具志堅スポーツジム公式サイトより
  • 白井・具志堅スポーツジム公式サイトより

「モチベーションが上がらなければ辞めようと思っている」

   沖縄県出身の比嘉は地元の高校を卒業後、同郷の元世界王者である具志堅用高氏が経営するジムに入門。高校時代は全国大会での優勝経験はなかったが、プロデビュー後は軽量級離れした強打でKOの山を築き上げ、WBCユース王座、東洋太平洋王座を獲得。迎えた2017年5月の世界初挑戦では、6回TKO勝利を飾り王座を奪取。デビュー以来の連勝を「13」に伸ばすと同時に連続KOも「13」とした。

    その後は2連続TKO勝利で王座を防衛し、順調にキャリアを積んでいたが、2018年5月に行われた3度目の防衛戦で大失態を犯した。前日計量でリミットを900グラムオーバーして王座をはく奪された。日本人の世界王者が体重超過で王座をはく奪されたのは、比嘉が初めてだった。事態を重くみたJBCは、比嘉に対してプロライセンスの無期限停止処分を科し、復帰するにあたっては1階級以上の転級を義務付けた。

   2019年10月にようやく比嘉の処分が解除され、今年2月に後楽園ホールで復帰戦を行った。フィリピンの国内ランカーを相手に6回TKO勝利を飾ったものの、試合後、比嘉の口から飛び出したのは意外なものだった。「東京に出てきた当時の闘争心が今の自分にはない。このままモチベーションが上がらなければ(ボクシングを)辞めようと思っている」と発言し、具志堅会長を困惑させた。

かつては「会長の署名」が必須だった

    今後に関して意味深な言葉を残した比嘉が選択したのは、「引退」ではなく「ジムの移籍」だった。白井・具志堅スポーツジムの公式サイトでは「この度、本人の希望により比嘉大吾は2020年3月11日の契約更新を行わず、この日をもって弊ジムを離れる事となりました。昨年夏、もう一度白井・具志堅スポーツジムで試合がしたいと本人たっての願いでジムに戻ってまいりましたが、このような結果となりました」と経緯を説明している。

   24歳の元世界王者がデビュー以来所属していたジムを離れたことは、ボクシング関係者に少なからず衝撃を与えた。比嘉は現在、WBC世界バンタム級6位にランクされ、WBAでもバンタム級9位に入っている。WBC、WBAの2団体で世界王座への挑戦権を有する世界15位以内にランクされており、ジムを経営する立場からすれば、とてつもなく大きなものを失うことになる。

   ボクシングの長い歴史において、選手がジムを移籍するのにいくつかの高い壁が立ちはだかった。これまでは、選手がジムの移籍を希望した場合、ジムの会長の署名が入った移籍届をJBCに提出する必要があった。これはルール化されたものではなく、ボクシング界の慣例として行われてきたもので、過去には移籍を巡り会長と選手間で数々のトラブルがあったという。

新ルール導入で移籍への足かせ外れる

   この他には、移籍に伴う移籍金が問題視されてきた。ジムによっては、選手を練習生時代から育て上げたとして、移籍先のジムに法外な移籍金を求めるケースもあったという。ボクサーのレベルが上がるほど移籍金の額も膨れ上がるため、これまで世界ランカークラスの選手の移籍は現実的ではなかった。これらの問題をクリアできず、移籍できないまま引退を余儀なくされた選手は数多くいた。

    昨年10月、このような業界の慣例にようやく終止符が打たれた。JBCが日本プロボクシング協会にジムと選手の新たな契約制度として「統一契約書」を作成することを義務付けた。これにより、最大3年の契約期間を満了すれば、所属ジムの会長の承諾なしに移籍することが可能となり、移籍金が発生しないシステムとなった。ま た、選手は契約満了日の2か月前から更新を拒否することができ、他のジムとの交渉も自由に行うことができる。

    これまで移籍を希望する選手にとって大きな足かせとなっていたものが外れたことで、よりスムーズに移籍することが可能となったのだ。選手がマネジャーと直接契約する海外とは異なり、独自の「ジム制度」を敷く日本は選手とジムのマネジャーが契約を結ぶ。これまで弱い立場にあった選手は、この新たなルールが導入されたことで、選手一人ひとりの意志が尊重され、より可能性が広がったといえるだろう。

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