「新聞やマスコミで連日大きく取り上げられている新型肺炎コロナウィルスについて、県はどう考えて、どんな対応を取っているのか質問がありましたので、県の健康福祉部医療健康局疾病対策課に話しを伺いました」
諸田洋之・静岡県議が、こんなコメントともにYouTubeで動画を公開したのは、2020年1月27日のことだ。3月8日現在、動画は非公開にされているが、コロナウイルスについての概要から、「最悪のシナリオ」までわかる内容だったという。
諸田氏がマスクの「大量出品」を始めたのは、その約1週間後とみられている。
かつては維新から国政挑戦
3月7日以降、地元紙・静岡新聞を皮切りに、現職県議の「マスク大量出品」はNHKなど大手メディアも相次ぎ報じ、多くの人々の顰蹙(ひんしゅく)を買う騒動となっている。
この諸田氏は、どのような人物なのだろうか――。
公式サイトのプロフィールによれば、諸田氏は1966年生まれの53歳。法政大学大学院でMBAを取得したという。
2012年には、当時日の出の勢いだった日本維新の会から衆院選に出馬した。当時の肩書は「IT関連会社社長」や「通販会社社長」だったが、3位で落選している。翌13年には静岡県議補選に挑むも再び落選となり、その後14年の維新分党に際して党を離れた。
15年の県議選で、地元・焼津市から無所属で出馬して初当選し、19年も再選を果たしている。19年の選挙公報では「無所属だから市民目線」をキャッチフレーズに、「しがらみが無く、多様な民意を県政に届けられる!!」とアピールしていた。
県民への情報発信にも力を注いでいたようで、19年10月から「諸田洋之YouTube県政報告」と題して、ユーチューバー張りの活動も。もっとも、それらの動画はすべて非公開にされてしまったのは前述のとおりだ。
インクの「おまけ」にマスクも
一方で、経営者としての活動も続けていた。代表取締役を務める企業では、楽天を通じプリンター向けの互換インクカートリッジを販売している。諸田氏は「店長」を名乗り、顔出しでページに登場、自ら中国の工場に視察に赴く姿が掲載される。
このショップの商品ページには、5セット以上対象商品を購入すると、「おまけ」としてマスクが付く、という表記が――。そして、諸田氏のものとして拡散する「ヤフオク!」のアカウントからは、その「おまけ」と同一らしきパッケージのマスクが出品されている。
諸田氏はNHKの取材に対し、「経営する貿易会社で数年前に仕入れた在庫品で、転売にはあたらず問題は無い」と説明したという。実際、商品ページにも「新品未使用商品ではありますが、在庫処分品ですので、箱のつぶれ、汚れ、変形があります」との説明がある。
ただ、その出品件数の多さは、やはり目を引く。件(くだん)のアカウントが出品を開始したのは2月4日だが、以降3月までに、およそ90件の取り引きが確認できる。多くは2000枚1セットで、最低2万円台、いたずらと思われる「600万円」を除くと、17万円で成立した取り引きも。特にマスク不足が深刻になった3月以降の出品13件は、1件を除きすべて10万円以上に達している。
この間、マスクなどのフリマ・オークションサイト出品への批判は高まり続け、4日にはヤフオク!も14日以降の出品を禁止すると発表した。だが、このアカウントの動きに変化はなく、最後の出品は6日。報道の1日前のことだった。