ぜんそく治療剤「オルベスコ」、メーカーは冷静な対応呼びかけ 品薄懸念も「(患者への)安定供給続ける」

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   新型コロナウイルス問題に関連して、吸入ステロイド喘息(ぜんそく)治療剤「オルベスコ」(商品名)が本来必要とする患者に届きにくくなるのでは、という懸念がツイッターに寄せられている。日本感染症学会サイトで、新型コロナ感染症の患者3人に投与したところ「改善した」との事例が公表されメディアの注目も集まったため、品薄になるのではないかと心配している。一方で、「医師の処方箋が必要なのに、なぜ在庫が変動するの?」と疑問視する声もある。

   オルベスコのメーカーである帝人ファーマに確認すると、「今まで使っている患者さんに安定供給を続けるため、出荷調整を始めた」。「出荷調整」とは、「従来の出荷量を減らすという意味ではない」と断言、新型コロナ関連報道を受けた不自然な「需要増」分には、そもそも「適応外」であるため応じないという趣旨だと説明し、冷静な対応を呼びかけている。ある薬剤師も、品薄状況は確かに一部で生じ始めたが、「一時的現象で、ほどなく終息するでしょう。トイレットペーパーをめぐる騒動の構図と似てますね」と話した。

  • 吸入ステロイド喘息治療剤オルベスコ(画像は帝人ファーマ公式サイトより)
    吸入ステロイド喘息治療剤オルベスコ(画像は帝人ファーマ公式サイトより)
  • 吸入ステロイド喘息治療剤オルベスコ(画像は帝人ファーマ公式サイトより)

出荷調整の目的は「今まで使っている患者さんに安定供給を続けるため」

   神奈川県立足柄上病院などが、「シクレソニド(商品名:オルベスコ)」投与(吸入)で新型コロナ感染症の初期から中期の患者3人について「改善した3例」として日本感染症学会サイトで公表したのは2020年3月2日。以降、テレビのニュース番組や情報番組でも紹介された。4日には、帝人ファーマの親会社、帝人の株価について「帝人が大幅続伸、感染症学会『<オルベスコ>投与で良好結果』で」(朝日新聞ウェブ版)といった記事も出た。

   2日の発表以降、ツイッターには「改善」事例を伝えるメディアに対し批判的な声も寄せられるようになった。メディアが大きく取り上げることで、新型コロナ感染症への不安からオルベスコへの需要が高まって品薄になり、本来必要な患者に行き渡らなくなってしまうのでは、といった趣旨の指摘が多い。また、実際に入手できなかった、入荷できなかったというツイートも出始めた。一方で、入手には医師の処方箋が必要なことから「処方箋ないと売れない薬でしょ、なんでテレビ報道で在庫が変動するの?」といった声もある。

   こうしたツイ―トの中には、メーカーの帝人ファーマによる「出荷調整」の影響に言及するものもある。J-CASTニュースが6日、帝人ファーマの広報担当に確認すると、「今まで使っている患者さんに安定供給を続けるため、3日から(オルベスコの)出荷調整を開始した。5日からは、問い合わせがあった医療機関などへ(出荷調整を始めたことを)知らせ始めた」と答えた。

   「安定供給のための出荷調整」とはどういう意味かを質問すると、従来通りの量の供給を卸業者に続けるが、新型コロナ関連の発表を受けたと想定される「急な需要増」分には応じずに調整するという意味だと説明した。「従来の出荷量を減らすという意味ではない」とも断言し、「今まで使っている患者さんに安定供給を続けるため」の措置だと、冷静な対応を呼びかけた。そもそも新型コロナ対策での投与は「適応外」(後述)だとも説明した。

「品薄は一時的で、ほどなく解消していく」

   また、喘息などの治療に当たる関東地区の病院院長に6日に話を聞くと、「今のところオルベスコが手に入らないという報告は聞いていない。しかし、薬局関係者は『入手が難しくなってきている』と話していた」と明かした。

   さらに、東日本地区の薬局に勤務する男性薬剤師は、取材に対して次のように現状を説明した。もともと大量に流通するものではないこともあり、確かに一部で品薄状況が出始めているが、一部の悪質な関係者が一時的に普段より多い量を確保したためで、大手の医薬品卸業者も今後はそうした関係者の要望に応じないようにする姿勢を示しているという。メーカーもこれまで通りの供給を続けるとしており、「品薄は一時的で、ほどなく解消していく」とみている。トイレットペーパー騒動と似ている側面があるとも指摘し、冷静な対応が必要だと指摘した。

   トイレットペーパー騒動は、国内供給体制は十分あるのに、局所的・一時的に売り切れた売り場の写真とともに、「新型コロナの影響で中国からの輸入が滞って入手困難になる」といったデマが拡散された。デマを信じるか信じないかは別にして「念のために購入」する人も相次ぎ、一時的に売り切れる店舗が相次いでしまった。流通量を急に増やすのが困難だったためで、大元の生産・供給体制は問題なく、次第に解消に向かっている。今回の場合、「一部の悪質な関係者」が「念のために購入する人」などに該当する構図と考えているようだ。

「定期的に利用されている人には、きちんと届くようにして頂きたい」

   喘息などのアレルギー児を支える活動を行っている「NPOアラジーポット」(東京都)の栗山真理子代表に話を聞くと、

「(喘息治療に)定期的に利用されている人には、きちんと届くようにして頂きたい」

と訴えていた。

   また、帝人ファーマがもう1点強調していたのは、新型コロナ対策でのオルベスコ投与は「適用外」だということだ。オルベスコの添付文書では禁忌事項の一つに「有効な抗菌剤の存在しない感染症」とあり、新型コロナでの投与はこの禁忌事項に当たる恐れがある。実際、2日の日本感染症学会サイトでの発表文でも、症例蓄積への協力を求める表現とともに、オルベスコの添付文書では禁忌に該当すると指摘し、

「各医療機関のご判断で、倫理委員会に諮ったうえでご使用いただくことになります」

とし、一定のハードルがあることを明記している。


【参考追記、3月11日】帝人ファーマは3月10日、自社公式サイトで次のような発表文を載せた。

「帝人ファーマは本年3月9日付にて厚生労働省健康局結核感染症課より要請を受け、新型コロナウイルス感染症に対する治療薬の検討に資するべく、当社が製造販売承認を有します吸入ステロイド喘息治療薬(一般名:シクレソニド)の供給体制を確保いたします。

   このたびの対応は、現在、本剤を使用されています気管支喘息の患者さまへの安定供給を確保した上で実施するものです」

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