新型コロナウイルスによる肺炎について、自民党の一部国会議員らが「武漢肺炎」と呼ぶと宣言し、ネット上で論議になっている。
このままでは日本が悪いような偏見が広がるというのだが――。
国会で山田宏議員が「武漢肺炎」
「武漢肺炎」の呼び方は、ネット上や一部メディアでは、日本に限らず、これまでも一部の人たちから使われていた。
それが、2020年3月3日になって、国会という公の場でも使われる事態になった。
この呼び方を使ったのは、自民党の山田宏参院議員だ。山田氏はこの日、質問に立った参院予算委で、新型コロナウイルスによる肺炎について、あえて「武漢肺炎」と呼んでいると明らかにした。
その理由として、山田氏は、中国の新聞などでは、武漢が発生源ではない、まん延したのは日本や韓国の対応が悪いから、といったことが書かれており、名前をあいまいにすると原因究明が忘れられてしまうと説明した。
高須クリニックの高須克弥院長も3日、山田氏の主張にツイッターで賛同し、「『武漢肺炎』を定着させておかないと歴史に『日本肺炎』が残り、日本の子孫たちが謝罪させられる」と懸念を示した。
高須氏は、明言していないものの、「日本肺炎」の言葉を使ったのは、ネット上の騒動が背景にあるとみられている。
駐日本中国大使館が2月27日、在日中国人を対象にしたサイト上の中国語文書で「日本新型冠状病毒肺炎」との表現を使うと、この表現がツイッターで「日本新型コロナウイルス肺炎」と読み取れると一部で批判があった。元警視庁通訳捜査官の坂東忠信氏がこのことをツイッターで紹介し、28日のネット番組「真相深入り!虎ノ門ニュース」への出演でも同様な指摘をすると、ツイッター上で大使館への非難が相次いだ。
中国大使館「武漢肺炎はもともと存在していない」
これに対し、中国大使館は3月1日、「その文章の意味は『日本でのコロナウイルス感染状況が変化している』、『日本新型コロナウイルス肺炎』という意味ではまったくないので、正しく理解していただければと存じます」などとツイッターで説明し、対応に追われた。
一方、坂東氏は2月28日、誤解を招くと元のツイートを削除したものの、その後、大使館文書の表現があいまいで、後々意味がすり替えられると危惧してツイートなどをしたとし、主張そのものは変えていないようだ。
「武漢肺炎」については、坂東氏も、高須氏に近い考えを示し、「ここでなぜ『武漢肺炎』と呼ぶべきか? それは過去の歴史捏造に学んだから」「今しっかりと詰め将来の捏造を予防すべき」と山田氏の国会発言に賛辞を寄せていた。
とはいえ、世界保健機関(WHO)は2015年5月、新しい感染症の命名に関するガイドラインを発表し、差別や偏見を避けるため、特定の地名などを結びつけないと定めている。このことから、今回の新型コロナウイルスによる感染症は、地名などと関わりのない「COVID-19」という名称になった経緯がある。にもかかわらず、命名後も山田氏のように少なからぬ人たちが、「武漢肺炎」という呼称を意識的に使い続けている状況だ。
山田氏の提唱について、元新潟県知事の米山隆一氏は3月3日、「肺炎を『武漢肺炎』と言えば、国民が一丸となって感染を抑えられるとでも思っているんですかね」と批判し、「感染症に乗じて差別や民族対立やデマを煽る人が多い事に極めて残念な気持ちになります」と漏らした。
中国大使館は4日、ツイッター上での「早く武漢肺炎無くなってほしい」との呼びかけに対し、こうリプライを送っていた。
「武漢肺炎はもともと存在しておらず、COVID-19か新型コロナウイルス関連肺炎という物を撲滅します!」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)