北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が2020年3月2日、前線長距離砲兵区分隊の火力打撃訓練を現地指導した。国営メディアが3月3日に伝えたもので、新型コロナウイルスの感染が本格的に問題化しはじめた2月以降、国営メディアが正恩氏の動静を写真付きで伝えるのは、これで4回目。
北朝鮮では新型コロナウイルスの侵入に神経をとがらせており、国営メディアでは連日のように国民に屋外でのマスク着用を呼びかけている。マスクを着用しないことが「国の前で罪を犯すこと」だとする記事もある。
正恩氏も会議で「いかなる特例も許容してはならない」と述べている。ところが、国営メディアが配信した写真では、屋外では幹部はそろってマスクを着用するなか、正恩氏が着用しているものは1枚もない。正恩氏の動静報道が「特例」を際立たせる結果になっている。
背景の軍人は黒いマスク着用しているのに
2月以降に写真付きで動静が報じられた4回中のうち、2回が屋外での活動。そのうち1回が3月2日の「火力打撃訓練」現地指導だ。河野太郎防衛相は3月3日の記者会見で
「東部の元山(ウォンサン)付近から、北東方向に2発の短距離弾道ミサイルを発射したものと推定している」
と述べており、正恩氏は、この発射に立ち会ったとみられる。国営メディアは正恩氏の写真を2枚配信。いずれも軍幹部とみられる人物が黒いマスクを着用しているが、正恩氏はマスクをしていない。もう1回は、2月28日に行った人民軍部隊の合同打撃訓練の現地指導だ。正恩氏の写真は2枚配信され、背景の軍人は黒いマスクを着用しているが、正恩氏は着用していない。
屋内での2回は、金正日総書記の誕生日「光明星節」(2月16日)に合わせて、遺体が安置されている錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を訪問したことに関する2月16日の報道と、朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議に関する2月29日の報道だ(宮殿訪問や会議開催の日付は不明)。この2回の報道では、正恩氏や幹部を含め、マスク姿の人物は確認できない。
ただ、国営メディアは、北朝鮮国民に対して特に屋外でのマスク着用を厳しく呼びかけており、正恩氏の行動との「整合性」が問われそうだ。とりわけ厳しい内容なのが、2月22日付の労働新聞に掲載された解説記事で、冒頭で
「我が国には、まだ感染者は一人も発生していないが、一瞬たりとも油断してはならないし、高度の緊張を維持しなければならない」
などと緊迫感を煽る。具体的な対策のひとつがマスクの着用で、「全住民が野外でマスクを徹底的に着用するという国家的な指示もすでに通達された」といい、
「すべての社会構成員が日常生活、特に公共の場所でマスクを着用するかしないかは、国家が人民の生命安全を守るために宣言した防疫大戦に向き合う態度の問題」
といった精神論が終始強調されている。
マスクしないことは「初歩的な義務も守れずに国の前で罪を犯すこと」
特に、今は「感染症を防ぐための尖鋭な決戦が展開されている緊急時」で、それでもマスクを着用しないことは「社会の一員として、初歩的な義務も守れずに国の前で罪を犯すこと」だと警告している。
前出の2月29日に報じられた拡大会議のテーマのひとつがコロナウイルス対策で、正恩氏は
「単なる防疫活動ではなく、人民防衛の重大な国家的活動であり、党中央委員会の重い責任である」
などと、その重要性を強調した。正恩氏は「国家防疫システムの中でいかなる特例も許容してはならない」とも述べたという。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)